このページは耳管開放症ホームページについての記事の転載ページです。
株式会社NHK情報ネットワーク”情報化メディア懇談会”会員誌
I-Media 1997 7 No.161(p44-p47)
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リポート
”インターネットは最新医学百科辞典”
〜日本発HPで見つけた難病の治療情報〜
ビッグベン・イーデント・ジャパン
ケリー・ハカマ・リサ
金沢市立病院耳鼻咽喉科 科長 医学博士
石川 滋
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医療情報サービスの日本医療情報センター(JAMIC)がまとめた「医師のインター
ネット利用状況」調査で、回答者の過半数(約54%)がすでにインターネットを利用
していることが分かりました。調査総数6万人のうち 回答率が約12%といいますから
、全国で7,000人近くの医師がネチズンだということになります。確かにネットサーフ
ィンしていると、医学情報の充実ぶりに驚かされます。それを実証するようなリポー
トが、元女優でBSサッカーダイジェストのキャスターなどをつとめたリサさんから
届きました。そこで、リサ一家が出会ったホームページの発信者である石川滋医師にも
お願いして、関連のリポートをいただきました。 (I-Media編集部)
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「アメリカ経由で見つけた日本の治療情報」
ケリー・ハカマ・リサ
インターネットは、世界を結ぶ最先端のコミュニケーション手段として
、確実に日本社会の重要な機能の一部と成りつつあります。
爆発的な普及に伴い、最近はブラウザーの機能や情報量だけではなく、「情報の
質」にも目が向けられるようになってきたようです。流行のファッションのようにもてはやされ、
ポジティブな追い風に乗って時代のトレンド視されていたインターネットも、
真の需要とその価値が追求され始めたのだと思います。
私自身にその価値を実感させる1つの出来事が起こりました。
突然ですが”耳管開放症”という病名を聞いたことがありますか。”耳管開放症”
とは、耳の奥と鼻の奥とつながっている管(耳管)が開きっぱなしになるために起こる
病気です。耳がふさがっている感じがしたり、自分の声や呼吸音が耳に大きく響いたり
します。時には、めまいや難聴、不快感からイライラを引き起こします。
実は私の夫デイビッドは、15年間この病気に悩まされ続けてきました。特に
生命にかかわるとか、日常生活に著しく支障をきたすという病気ではありませんが、
アメリカと日本で、何人もの耳鼻咽喉科の先生方に相談しました。しかし、世界
的にも具体的な治療法がまだ見つかっていない難病の1つだということで、いくつかの
試薬をいただきましたが、これといって何の効果も得られませんでした。本人も、
もう半ば諦めムードで、この病気と一生付き合っていくしかないと思っていたようです。
ところが、1ケ月程前、ミシガンに住んでいるデイビッドの父親からEメールが送られて
きました。彼は弁護士をリタイアした後、医学の勉強を始めて、特に
治療法の見つからない奇病、難病と言われている病気の治療の研究に従事しています。
そのメールの内容は、なんと「日本の金沢市立病院に、耳管開放症を簡単に
治してしまう薬を発見した医者がいるということを、偶然インターネットで見つけた」
というものでした。
さっそくデイビッドとともに、そのホームページ(http://jun.ient.or.jp/~ishikawa/)
を開いてみたところ、日本語と英語の両方でアクセスでき、内容も細部に渡って素晴らしく、
ひとしきり2人で感動してしまいました。そしてすぐにそのサイトを作られた石川 滋先生
に、Eメールを送りました。すると翌日にはお返事をくださり、その日のうちに近所の薬局で
その漢方薬を手に入れることができました。今はその薬が、どんな変化をもたらして
くれるか、楽しみに待っている状態です。
ところでサーバーの提供者は、岩脇医院の岩脇淳一先生という方で、全国の耳鼻咽喉科の
先生とともに、花粉症から難病までと、さまざまなページを作っていらっしゃいます。
日本のインターネットは、アメリカよりも10年遅れているとか、ソフトの質が劣る
とか言われているときに、偶然にも、しかも逆輸入という形で、世界に誇れる日本発の
医療ホームページを目にして、とてもいい気分でした。
今回の出来事で、私は不治の病と闘う1人の少年のことを思い出しました。その少年の
名は、ロレンツオ。”ロレンツオのオイル”という実話に基づいて作られた映画の
主人公の少年です。
ロレンツオは、7歳の時にALDと診断されます。ALDとは、50,000分の1の確率で
母親から遺伝し、言語障害、視覚障害、歩行障害の症状があらわれ、発病からほぼ2年以内
に死に至る不治の病と言われていた病気です。ところが、ロレンツオの父親、オーガスト・
オドーネは、自らの手で息子を救おうと、死力を尽くして研究に研究をかさね、ついに
食用油の混合によって、ALDの進行を止める特効薬を作り出しました。その食用油の混
合液は、後に”ロレンツオのオイル”と呼ばれ、ALDと闘う多くの子供たちの命を救ったのです。
”ロレンツオのオイル”がオーガストによって作られたのは、ほぼ10年前。自分の体験
から、その頃インターネットが現在のように普及していれば、もっともっと多くの命を救えた
のではないか、と考えさせられました。そこで、その後の”ロレンツオのオイル”を追うべく、
ネット上で検索をかけてみました。
思った通り”ロレンツオのオイル”のホームページがありました。そこには
父親オーガストの喜びのメッセージが載せられていました。「ロレンツオは無事に
18歳の誕生日を迎えました」と。感動しました。
世界には不治の病、奇病、難病と闘っている人々が大勢います。厚生省の認可や政治家の
決断を待ち切れず、日々失われていく生命がたくさんあります。役人や政治家の責任逃れ
の愚行の間に、医療の世界ではインターネットが、確実に人々の尊い生命を救ってい
くことになるのではないでしょうか。
医療保険制度の改革によって、個人の医療負担が増加していくなかで、日本人の医療に
対する姿勢も、変化せざるを得なくなるでしょう。今までのように、医者に言われるがままの
薬づけの受動的姿勢から、自ら医学の知識を養い、自分にとってどんな治療に何の
薬が必要で、そのためにいくら払っているのかを、個人個人が自覚して、能動的に医療の場に
参加していかなければならない時代が、近い将来必ずやってくると思います。
そういう時代の流れのなかで、インターネットと医療の関係はより深まり、必要不可欠な
存在と成りうるのではないでしょうか。インターネットの真価は、決してファッション
やトレンドといった浮わついたものではなく、金儲けの手段でもなく、人々の
かけがえのない命を救う”21世紀の救世主”であるというところにあるのではないでしょ
うか。
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「HPはイタリアからのメールがきっかけ」
金沢市立病院耳鼻咽喉科科長 石川 滋
耳管開放症のホームページ(PET Home Page)を作るきっかけは、一人のイタリア人のE-mailでした。
ネット上で耳管開放症を検索していたところ、複数のニュースグループに同じ記事を投稿している
一人のイタリア人の記事を見つけました。奥さんが耳管開放症と診断されたので手術できる所を
教えて欲しい、という内容でした。これはかなり困っていると思い、たまたま耳管開放症の
薬物療法を行っていた私は、彼に薬物治療を知らせるメールを書きました。彼としばらくメールの
やりとりをするうちに、外国にも耳管開放症で困っている人が結構いることがわかり、ちょうど
コンピューター仲間の岩脇先生がLinux(フリーのPC-Unix)でサーバーを立ち上げた所だったので、
ほんの軽い気持ちで耳管開放症のホームページの作成を始めたわけです。
最初のバージョンは簡単なもので、実際にPET Home Pageが役にたつのか全くわからず、
耳鼻咽喉科のインターネットの総本山であるベイラー医大耳鼻咽喉科のホームページのWebMaster に
コメントを求めました。彼はこのホームページに非常に興味を持ち、すぐにリンクページに登録して
くれました。彼の誘いで40か国、500人の耳鼻咽喉科から構成される耳鼻科のメーリングリストに
参加し、このメーリングリストを通してURLのアナウンスをし(その後作ったホームページもここで
アナウンスしています)、サーチエンジンへの登録をしました。やがて海外の耳管開放症の
患者さんから、治療に関しての質問メールがくるようになりました。患者さんとのメールのやりとりを
するうちに、外国の漢方薬の現状や日本の現状などを、改めて知ることになります。
海外では漢方薬は健康食品として扱われている場合が多く、生薬の薬局と一般の医療施設の間には、
情報を交換する場がないこと。日本は漢方薬が一般の病院で処方され、それらの客観的な臨床データが
得られる非常にめずらしい国だという事などです。
今年に入ってから、アメリカの患者さんの新たな要望で、実際にその漢方薬を買える薬局を海外で
探す必要が出てきました。生薬療法で検索をかけて中国生薬の薬局をインターネットで探して、
直接メールを書いて情報を探し始めました。感覚的にはネットサーフィンの宝探しです。
これで得た情報と患者さんからの質問(副作用情報など)をまとめて、ホームページの作り替えを
しました。
軽い気持ちで始めたPET Home Page が、いつの間にかこのような原稿を書く程になってしまい、
ちょっと当惑しているのですが、PET Home Page が支持されているとすれば、このホームページが
臨床データだけではなく、患者さんを含め色々な方面の方からのバックアップによって作られて
いるせいかもしれません。
今年に入って、岩脇先生のサーバーで医学翻訳のホームページ(http://jun.ient.or.jp/~yozo/)を
持ち、PET Home Page の英語版の監修をしていただいたNTT金沢病院の岡部先生が、医学翻訳の
メーリングリストを立ち上げてグローバルな情報交換を行っています。
また岩脇先生の奥さんはキングクリムゾンのベーシストのTony Levinのファンで、ファンクラブの
ホームページ(http://thrak.ient.or.jp/~tlclub/jwelcome.html)を立ち上げたのですが、
Tony Levin本人からメールが来て公認のホームページになってしまいました。
こういうことはボランティアで行っているわけですが、世のため人のためというより、
色々な人とコミュニケーションがとれるのが面白くて続けている、というのが私を含めた仲間の
本音だと思います。
医療の世界に限らず、個人が得た情報をみんなで共有するために、学会発表があり、学術雑誌が
あります。しかし、この情報の共有化システムは、権威をつけるためには機能していますが、
情報化が進んだ現在ではあまりインタラクティブには機能していないような気がします。
もし、医療情報がインターネット上でかなり公開されれば、知りたい情報を検索し、直接メールで
問い合わせができるようになります。これは、情報を発信する多くの人がいる、という条件付きですが。
最後に、このような機会を与えていただいたケリー ハカマ リサさんとI-Media 編集部に
感謝いたします。
Shigeru Ishikawa MD.PhD. E-mail:ishikawa@po.incl.or.jp
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編集部から
http://www.ient.or.jp/para3D/jtitle.htmlものぞいてみて下さい。
「耳鼻咽喉科領域で現在さかんに行われている鼻内視鏡手術の術前診断として、Comp
uted Tomography (CT) は、なくてはならない検査になっています。バリエーション
のある副鼻腔の解剖をよく知るためには、解剖のトレーニングが理想的ですが、全て
の耳鼻咽喉科医にそのチャンスがあるわけではありません。ヘリカルCT を用いた画
像の3D化は放射線科領域を中心に広く応用され、臨床的に活用されていますが、副鼻
腔領域にヘリカルCT を応用すると、電子的な解剖のシュミレーションが可能になり
ます。粘膜の色調や組織の硬さなどを再現することは現時点では不可能ですが、副鼻
腔の構造や鼻腔との関係を、立体的に把握することができます。」(HPの解説から)
なによりも石川さんの顔を拝見できます。
転載を許可していただいた 株式会社NHK情報ネットワーク、I-Media 編集部
に感謝します
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