世の中にもの申す 24 |
建て主と設計事務所の紛争
前ページに書かれている住宅の建て主の方と『建て主と設計事務所の紛争』について交換したメールです。このやりとりの中で、コンクリート打ち放しからの漏水は防げない。また、トップライトからの漏水や結露を防ぐのは難しいというのは、私個人にとってのことであって、多くの設計事務所の設計が全てそうだという意味ではありません。私に、そこまでの技術がないだけのことですので、読んだ方は勘違いなさらないようにお願いいたします。
1999/10/09/16:36 はじめまして。ある建築家に依頼して家づくりをしてきた者です。プールのある家ということで、物珍しがられ取材も受けましたのでご存じかもしれません。 築2年になりますが、つぎからつぎへとさまざまなトラブルが発生しました。トラブルはひとつひとつ解決してきましたが、入居後の工事というのは家族にとってもかなりの苦痛で、まったく住んでいる心地のしない日々。建築家や建設会社は「ちゃんと対応してるぞ」的な顔でやってきますが、それは本来設計段階、施工監理のプロセスでクリアして、竣工前には終わっているべきもののはず。
にもかかわらず建築家は賞の審査や雑誌取材の話をうれしそうに持ってくるし、彼らにはまったくもって住み手が失った時間というものには何の意識もないようです。 その怒りをウェブにぶつけました。よろしかったご一読ください。
「選んだ建築家が悪かった」
そのページを見てくれた人から、「そんな建築家ばかりではないよ」と貴殿のページを教えてもらいました。 貴殿のページ、とくに「世の中にもの申す」は、いまならリアルにわかります。 なんと低レベルな世の中なのでしょう。ぼくも筋が通らないのは許せないタチなので、あれこれ批判したり戦ったりします。今回の家づくりに関しても、けっして「バカな施主の道楽」などではなかったのです。しかし、批判し戦うのも、ときどき疲れていやになりませんか。家とは、そういう疲れを癒す場所であってほしかったのに。 これまでも、これからも、こういう経験をする施主はたくさんいるのでしょう。貴殿のような「正しい」建築家が増えることを切に願います。しかし「正しい」考えによって、大胆な発想が切り捨てられるなら、それもつまらない。大胆な発想の多くは成立しないものである、という前提をしっかり理解し、そのうえで成立させる能力をもった人がいてほしい。もしくは自分もそうなりたいと思います。つたないメールですみません。具体的にどうということでもないのですが・・・。また、そろそろプール掃除しなくちゃいけないので、失礼します。
H さんへ メール読ませていただきました。『「みんなの建築」建築いいたい放題』のスレッドや H氏のサイトも全て読みました。当然、『住宅特集』も観ています。 実は、最近そういうサイトが多いのです。それだけ不満を持っている人が多いことの証明でもあると思いますが、冷静さを失った『サイト公開の目的』が何なのかわからないものもあります。しかし、 Hさんのサイトでは[21世紀の建築家諸氏へ]とのことで、ある程度目的が見えました。 文章を読んで書きたいことは山ほどあるのですが、どう書いていいのか、自分でも整理するのが難しいほどの問題です。 先日の台風の時に、私が広島でやった住宅へ電話をしました。地震や大雨や大風が来ると設計者は怖くてたまらないのです。『ダイジョーブよ』との返事を予想していたのに、意に反して「今、雨漏りしている」とのこと、すぐに建設会社に伝えて観に行ってもらう事にしたのですが(私は石川県に住んでいるのですぐにはとんでいけません)その原因は隣家の瓦が飛んできて防水に刺さったらしいとのことでした。しかし、その原因が分かるまで、『サイトで偉そうなことを書いているけど、とうとう自分を槍玉に挙げることになってしまったなぁ、これを読んで、仕事をくれる人もなくなるんだろうなぁ』・・・と、憂鬱でした。自分の失敗を語れると思っていたのですが、それに一瞬躊躇していることに気付いて愕然としたのを覚えています。 さて、Hさんの問題ですが、設計を職業としている身として言わせていただきたいことがあります。まず、打合せの不備と設計の問題と監理の問題と施工の問題とを区別することが
細かい話になりますが、配管の問題については施工が原因です。「それは、監理が行き届いていないからではないか」との反論はあるでしょう。しかし、監理業務というのは常駐でない限りそういうミスを発見するのは無理です。常駐監理の場合でもそこまでは業務責任を追及されないと思います。当然、竣工検査で水を流したりしてチェックするはずですが、なんとなく繋がっていて、それが最初はうまくいっているけど、時間と共にはずれて・・・ということは実際よくあります。そのために一年検査をするのが普通で、日本の四季を一通り経験した建物は不具合がだいたい出きってしまうものです。それで補修工事を掛けて初めてまともな性能をはたす建物になると私は考えています。しかし、不具合が出ないように監理者はミスの発見に努力することはいうまでもありません。 設計の問題は、例えば冷蔵庫を入れることができないなど 監理の問題は、施工の問題と同じく沢山ありそうです。まず、打合せの不備について設計図と違う仕様などの了解を施主に伝えていない。施工図のチェックが甘い。などなど。 打合せの不備については、情報の共有がなされていないこと。これが問題です。私の場合「コンクリート打放し」や「トップライト」は『自信がない』と伝えます。打放しについては、結露やクラックやPコン穴からの雨漏り対策に自信がない・・・っていうか、対処不可能だと思っている。
だいたいコンクリート打ち放しは一発勝負です。それに何千万掛けるというのは大博打です。当然、設計監理者としてはうまくいくように躯体の形を考えたりしますが、失敗の可能性は高いのです。建築雑誌に掲載されている打放しの建物で、雨漏りしていないのは無いと思います。ただ、インテリア側に仕上をしてあれば、そのわずかな空間に雨漏りがあっても
また、お客さんに監理報告書を提出しているか ? について疑問がわきます。殆どの設計事務所では、住宅の場合記録を取っていないようです。私は、建設会社に指示したこと電話の内容、お客さんとの打合せなど全て記録にして、建設会社とお客さんの両方に提出しています。だいたい住宅で監理業務だけで250〜300ページくらいになります。そうすれば、情報の共有は計れているようです。 私のサイトの『世の中にもの申す』では、お客さんの家の配管接続による不具合なども掲載していますが、ホントに読んで欲しいのはそういうところではなく『設計事務所の仕事』や『一通のメールから』などです。将来家を設計事務所にたのんで・・・と思っている人たちの参考になればと思っているのですが・・・。 >貴殿のような「正しい」建築家が増えることを切に願います。 私は『建築家』ではありませんし、『正しい』かについても自信がありません。そういうこと言っていて仕事がない状態です。うまく生きていくには、少しの嫌らしさも必要なようです。 たかが、一週間後に捨てるとわかっている雑誌を買うときにも、本屋に積み上げてある下の方から抜き出して買うのが普通です。お客さんはそういうものですし、ちょっとの傷にも神経質です。○○万円を私自身で支払って得かどうか考えて監理していますから、材料などの取替を指示することになります。汚れていたり傷が付いていたり、また、性能を果たしていなかったり、歪んで取り付けられていたりと現場ではきりがありません。そういうわけで、長村が監理をすると高くつく・・・といわれ、私に出てくる見積書は他の設計事務所より高いそうです。お客さんの為を思ってしていることでも、お客さんの足を引っ張ることになる。他の現場がそれほど、ナァナァなんでしょうけど。 >しかし「正しい」考えによって、大胆な発想が切り捨てられるなら、それもつまらない。大胆な発想の多くは成立しないものである、という前提をしっかり理解し、そのうえで成立させる能力をもった人がいてほしい。もしくは自分もそうなりたいと思います。 確かに仰ることはもっともです。こういう考え方のお客さんにであえたら面白いものができるかもしれません。しかし、私達設計者は、その考えの尻馬に乗ることにブレーキを掛ける冷静さが必要です。大胆な発想は必要ですが、お客さんの建物で実験するわけにはいかないと思います。建築はアートではないので最低条件は押さえる必要があります。しかし、設計者は自己満足のためにその、最低条件を忘れがちですし、自分の能力を過信するところもあると思います。
>ぼくはべつに作品をつくってくれてかまわないと思うんです。それでやる気を出して仕事をしてくれるなら。 立場も個性も違う人間、つまり施主と建築家が同じ意識を持つことは、ほとんど無理だろう。要は、依頼をし、お金を出すこちらが最終的に満足のいく結果を出してくれればいいのです。 この辺の文章は救いでした。 1999/10/10/23:51 長村さま お返事ありがとうございました。
>将来家を設計事務所にたのんで・・・と思っている人たちの参考になればと思っているのですが・・・。 見込み客じゃなくてすみません(笑) 読んでいるとつい、これまで家づくりのいろいろなことを、あんなこともあった、こんなこともあったと思い出しています。腹立たしいこともやわらいでいく気がします。なんだかんだいいながら、結局ぼくも家づくりを楽しんでたんじゃないか、といまさらながら思います。 前回の返答も含め、ひまなときで結構ですので読んでみてください。 >打合せの不備と設計の問題と監理の問題と施工の問題とを区別することが、必要ではないかと思います。それをごちゃ混ぜにするのは論点が曖昧になるのではないでしょうか。 そうですね。建築のプロセスについては、ぼくも素人ながら理解して問題や責任の所在を明確にしようと努めてきたつもりですが、ウェブのレポートではそれをとくに意識した作り方はしませんでした。というのもこれから施主になる人が読む場合にポイントがわかりにくくなるし、すべてのプロセスは最終的には、施主に対してはひとりの人間の責任、つまり建築家の責任だと思っているからです。(それで今回のようなことになのだから、結局は彼に依頼した自分の責任。また仮に事故等で家族や近隣に何かあったら、それもぼくの責任でしょう。もしくは申請を許可した当局の?) はじめて事務所を訪ねたとき彼は「まず施主の要望があって、それをかなえる家づくり」をし、
しかし、その建設会社を連れてきたのも建築家であり、その会社がどうの程度のものかは、やはり素人には判断しかねます。建設会社の営業がへんてこなネクタイをしていても、現場監督が意外に若くて、いわゆる頑固で恐そうな現場監督のイメージと違っていても、見積もりが合いそうな建設会社の候補の中で、建築家がもっともプッシュしているのがそこだとしたら、そこを選ぶしかできない。どの建設会社も選んだとしても、大なり小なりルーズな部分を持っているのではないかという危惧はあったけれど、それを言っちゃ始まらない。そういう不安を解消するために建築家がいて、きっちり見てくれるのだから、建築家が押すところでいいじゃないか。そう考えて決めました。 ぼくから建設会社に直接何かを指示したり確認したことは1度もなく、すべて建築家を通じてでした。現場には設計事務所の人がほぼ毎日常駐していると聞いてました。 ただ依頼当初、以前の仕事で使った鉄筋を組んだ写真などを貼ったレポート(これが恐らく監理報告書ではないか)を見せてもらい、このようにしっかりと監理を行うと説明されたにもかかわらず、それは結局提出されませんでした。
打ち合わせについても、設計段階はもちろん工事がはじまってからも、しつこいほど持たせてもらいました。打ち合わせには、気づいたことをメモしたものをいつも持参し、建築家もぼくの細かさにはあきれるくらいでした。 打ち合わせ内容を書面にしたものが後日FAXで送られ、抜けや誤解がある場合は逐一訂正しました。言った、言わないのトラブルを避けるため書面にしたいとの要請を受け、言い忘れたこと、追加・修正すること、すべてFAXでやりとりしました。工事が始まってからのやむをえない変更等もすべて、その方法で伝達され、こちらも文書で承諾を返していました。(にもかかわらず2〜3の部分は事後承諾させられたものもあります。)
設計自体については、提出されたプランに技術的裏付けがない、もしくは危ういなどとは、毛頭考えませんでした。 大胆な仕様があったとしても、それを期待していたのも事実ですし、だからといってそれが机上の空論、もしくはバーチャルな設計であれば、ぼくでもできるかもしれません。実現可能なもの、が大前提のはず。どのレベルで実現するかも、住宅として依頼しているつもりで、「家とはなにか」など議論したことはありませんが、人によっては、雨漏りしようが結露しようが、建ってるんだからいいじゃない、とされるのかもしれませんね(?!) >設計の問題は、例えば冷蔵庫を入れることができないなど 設計段階で家具などの搬入については、通路の内寸は800mm確保、どのマンションでもそれが基準であるから大丈夫との説明を受けました。しかしドアの厚みなどのロスを計算してなかったのではないでしょうか。 >打放しについては、結露やクラックやPコン穴からのに雨漏り対策に自信がない・・・ていうか、対処不可能だと思っている。 結露については全般的にはなぜだか意外と起こりません。はじめての冬、バスルームまわりでありました。主にトップライトの支持鉄骨やアルミの外枠(結露受けは付いているんですが)からでした。市販の結露テープを貼って対処。それでもときどきお風呂に隣接するトイレ内の、外部に面した壁が濡れていました。トイレのつくりをじっくり観察した結果、お風呂との境(トップライトを鉄骨で受け、その下にコンクリートブロックの仕切り壁)に小さなすき間があるのを発見、シーリングなどの材料を買ってきてこれを埋めたところ、それ以降はこの結露も発生しなくなりました。お風呂からの湯気がこのすき間からトイレに流れ込んだためだったと思います。
>トップライトについては、断熱ができない事による結露は、ペアガラス+強化ガラスと網入ガラスの合わせがラスという構成で対処できると思いますが、そこまでやっている建築家は磯崎氏くらいです。 トップライトはペアガラスになっています、強化ではないですが。また網入りはイヤだと言ったところ、飛散防止フィルムを貼ってもOKとなりました。法規違反かもしれませんが。コストを抑えるために建築家はトップライト以外はペアじゃなくてもいいのでは、と言いましたが、外に面した部分についてはバスルーム以外は全部ペアガラスにしてもらいました。ハウスメーカーの広告等を見て結露の問題や断熱性でペアじゃないとだめと思いこんでいたからです。(施工段階で一部間違ってシングルが入っていて取り替えたところもありました。)アルミサッシも断熱性を工夫したもの(樹脂をはさみこんだタイプ)があると聞いてそれを希望しましたが、建設会社は○ステムとの取引が多く(○ステムって安いらしく、見積もりもそれで取っているとのこと)メーカーが違い、また仮に仕入れられたとしてもこの建て物の場合、製作できないサイズがほとんど、と言われ断念。遮音性もペアの方が高いと聞いた気がするのですが、住んでる実感ではシングルの方が静かな気がします。(開けたときと閉めたときの差で)またペアガラスは中が真空だと聞いていたのに、なぜか小さな虫が入っています。まさか現場で組み立てたのでは?!シングルorペア、ほんとはどっちがよかったのか、ペアガラスがそのコストに見合うだけの性能をこの家のトータルの仕様の中で提供しているのか、結局のところわかりません。 >また、トップライト廻りからの雨漏りについても対処する自信はありません。 雨漏りは2回の補修後、治まっています。しかしシーリングがやせてきたらまた起こるのかもしれませんね。 >だいたいコンクリート打ち放しは一発勝負です。それに何千万掛けるというのは大博打です。 ほんと、いま思うと恐いことです。しかし建てるまでは、この打ち放しというやつにすごくあこがれてもいました。(笑)でも、ぼくとしては単にかっこいいからというより、内装も外装もいらないので、コスト安、躯体という実質的なものにしっかりかけられると考えていました。またこれ以外に気に入った内装も外装もありませんでした。 いまでこそ今後のメンテのことも気になりますが、設計当初の建築家の説明では「最近のコンクリートの性能では打ち放しでも100年大丈夫」ということでした。ホント? 「建築家」ではなく、「設計者」なのでしょうか?
H さんへ 手紙のように思える読み応えするメールをいただきましてありがとうございます。 >>将来家を設計事務所にたのんで・・・と思っている人たちの参考になればと思っているのですが・・・。 >見込み客じゃなくてすみません(笑) いや、そういう意味ではなくて、私に頼まなくても設計事務所に頼むだろう誰かに設計事務所がしている仕事を理解して欲しいという意味です。私の事務所は田舎ですし、ウェブ上で情報を探してという人自体少ないのでサイトを観て仕事を頼んでくれる人がいることは期待していません。だいたい、サイトを観たからって何千万もする工事の『設計をお願い!』・・・なんて僕だったらしないもん。 >なんだかんだいいながら、結局ぼくも家づくりを楽しんでたんじゃないか、 といまさらながら思います。 僕は、H邸の設計自体の問題は少ないのではないかと思っています。それで、問題のありかを整理するべきではないかと感じたのです。問題の殆どは監理と施工にあるのですよね。今回のメールを拝見して感じたのは、常駐していた人が誰か ?というのが問題のようですね。若いペーペーの所員であれば現場の不具合の発見は無理だと思うのです。 所員を抱える限り、仕事を割り振りますから所長さんが現場の100パーセントを把握することは期待できないと思うのです。そういう意味もあって、私は所員を雇う気がありません。お客さんは私に頼んでいるのであって、所員に頼んでくれているわけではないと思うからです。 >ただ依頼当初、以前の仕事で使った鉄筋を組んだ写真などを貼ったレポート(これが
私の場合、監理報告書は二週間に一度、内容は工程表・打合せ議事録・その他の添付書類・工事写真(ある決まったアングルからの進捗状況を知る写真)です。その現場だけの議事録が200〜300ページにも及びます。私も言った言わないが怖いからです。でも、議事録に書いてあっても、所詮、お客さんは素人ですから、『そういう意味だと思っていなかった』と言われることもあって、書いてあるからと突っぱねるわけにもいかないんですけどね。引き渡しの時に、工事写真として、配筋検査や配筋状況・コンクリートの試験状況などなどの工事写真をまとめて提出しています。 >設計自体については、提出されたプランに技術的裏付けがない、もしくは危ういなどとは、毛頭考えませんでした。 いや、これは私は自信がないというだけであって、H邸の設計がそうだったとは言えません。 >遮音性もペアの方が高いと聞いた気がするのですが、住んでる実感ではシングルの方が静かな気がします。(開けたときと閉めたときの差で) 不思議ですね。私の設計したものは、ペアガラスで木製サッシュが多いのですが、すぐ外で話をしていても、中にいると身振りしか見えなくて、クチパク状態になるのですが、アルミサッシュだからですかね ? >またペアガラスは中が真空だと聞いていたのに、なぜか小さな虫が入っています 真空のものとガスを封入したものがあります。工場でその寸法で特注しますから、虫が入るというのは ??? メーカー品ですよね ? 普通ペアガラスにしたときは、経験上、防音からも結露からもあきらかに性能の差が出ます。その差をお客さんが体験するために必ずシングルガラスの部分も用意しておきます。また、私の場合浴室はペアにします。殆ど坪庭に向かってガラス面を大きく取るので湯気でくもってしまうと、庭に向かって浴室を設けた意味がなくなるからです。まぁ、この辺は好きずきですね。 >設計当初の建築家の説明では「最近のコンクリートの性能では打ち放しでも100年大丈夫」ということでした。ホント? 今のところ100年持ったコンクリート構造の建物自体私は知らないのでわかりません。しかし、コンクリートの質は昔より悪いのはあきらかだと思います。圧送ポンプ車でポンプ打ちするために水分量が昔より多くなっています。それが、コンクリートの質を落としている原因です。昔は猫車(ねこぐるま/一輪車)で運びゆっくり丁寧に打っていましたが、今ではあっという間に大量のコンクリート打ちができます。長い年月持つかどうかは、どれだけ鉄筋との間の『かぶり』がとれているか、ジャンカやクラックがないかにもよりますし。コンクリートの水分量がどれだけだったかでもある程度決まります。水分量を多くすると型枠内に廻りやすくなるので、比較的綺麗に打ち上がります。私はスランプを壁は18cm・スラブや基礎は15cmで指定します。20cmを越えたらやはり水分量が多いでしょうね。そちらはどれくらいだったのでしょうか
?
>「建築家」ではなく、「設計者」なのでしょうか? お客さんはよく『設計士』なんて呼びますが、そんなくらいなら『設計事務所と打合せがある』なんて言ってくれたほうがましですね。資格から言うと『建築士』だからそれでもいいのかも知れません。 1999/10/11/20:54 長村さま メールありがとうございます。今回はできるだけ手短かにと、こころがけます。 >メールを拝見して感じたのは、常駐していた人が誰か ?というのが問題のようですね。若いペーペーの所員であれば現場の不具合の発見は無理だと思うのです。 当時、設計事務所には所長である建築家のほかに女性1名、男性1名(年齢はともに30前後ではなかったか、あるいは女性の方がもう少し上だったか)が在籍していました。そのうち男性の方は別の現場がまだ残っていて、ぼくの仕事には女性の方がつきました。現場に常駐してくれたのもこの方です。打ち合わせのときも彼女はつねに同席していましたし、内容を把握していないというようなことはなかったと思います。あまり発言はしませんでしたが、細かい仕様に関して所長があいまいな発言をしたら彼女が訂正するようなこともありましたので、十分にキャリアのある方だと思います。実は○ーエスというメーカーの輻射熱式の冷暖房システムをピックアップしてきたのも彼女だったとあとで知りました。(専門誌での設備担当のクレジットは所長になってるようですが)他にも設計のアイディアのなかには彼女が出したものもあったかもしれません。そんな彼女なので、決してぺーぺーではないと思います。設計事務所にはオープンデスクとかいって勉強のために仕事を手伝いにくる学生もいるようですが、その人たちは電話の取り次ぎや模型の材料探しが主な仕事のようです。 しかしぼくが多少不安に思ったのは、現場にいる彼女を見て、業者の荒くれ男たちをほんとに仕切れているのかな、という点でした。声も小さく、また決して説明上手でもなかったように思います。それでも所長自らが現場に出向くことも多々あったはずだし、何かあった場合は所長の指示を仰いでいたと推察します。 また現場監督との相性?が悪いのではないかと感じたこともあります。現場監督にしてみれば「なんでこんな女に偉そうに指図されなくちゃいけないんだ」と思っていたのかもしれません。(あくまで想像ですが) この現場監督の仕事ぶりにも疑問があります。監督は現場をびしびし仕切るものだと思っていたのですが、彼はむしろ異常にソフトで、職人の気遣いばかりしていました。「うん、そこ、そうしてくれる、悪いね」「きょうはこのへんでいいよ、お疲れさま」 監督は建設会社の社員であり、いま職人の数が少ないなかでの確保に懸命なのでしょうか。また職人気質を配慮してのことかもしれません。年も30そこそこの監督が年上の職人たちに対処する技かもしれません。しかしときにはもう少し厳しく、監督の責務を考えての態度も必要だったのではないかと思えます。 ちなみに現場に常駐してくれた彼女は、竣工後に倒れたと聞いています。 >私はスランプを壁は18cm・スラブや基礎は15cmで指定します。20cmを越えたらやはり水分量が多いでしょうね。そちらはどれくらいだったのでしょうか ? 構造の要となっている東西の壁は30cm、スラブは40cm、基礎は50cm、その他は18cmです。 設計事務所は構造設計を外注していて、鉄筋の組み方やコンクリートの強度はその人が厳しくチェックしてくれたと聞いています。 当初、鉄筋の曲げが必要だった箇所は、「溶接する方が楽だし、強度も出る」という現場の意見によりそのように変更。しかし溶接箇所は数千にのぼったとのことです。 コンクリート打ちでは費用削減のため、強度試験は実施しませんでした。 コールドジョイント部ではバイブレータや竹竿を適切に使用したそうですが、その部分はやはり確認できます。 打ち放し仕上げに一部じゃんかが発生し、名古屋から特別の業者を呼んでの対処となりました。それはモルタルで埋めたあと、ペイント技術で表面を打ち放し風に偽装する、というものでした。
こうしてみると、一施主なのにやたら詳しいですね。(笑)が、しょせん素人の知識です。上っ面しかわかってないのでしょう。 でも、こんなことがありました。建築家はこの建物を日本建築学会賞に応募し、このあいだ審査員のお歴々がお見えになりました。(下の子供が産まれたばかりだから、かんべんしてくれと言ったのですが「そこをなんとか」と言われ)そのときいろいろ質問され・・・ 審査員「冷暖房はガスですか?」
審査員「断熱はスタイロですか?」
審査員「トップライトの部屋は暑いでしょ」
というような応答が繰り返されました。審査結果が楽しみです。 あとで聞いたところ、建築家は「壮々たるお歴々を前にしてあがってしまった」とのこと。そんなに賞はうれしいものなのでしょうか。彼は審査時間より1時間も前に来てました。 そうこうしながらも、もし彼が受賞することになったら、それで彼はハッピーなんでしょうか。万事オッケーなんでしょうか。安藤忠雄氏に次ぐ、小規模住宅での日本建築学会賞受賞、その栄誉によって建築家としての彼の未来は開かれていくのでしょうか。そんなもんなんでしょうか。
複雑な思いです。
H さんへ >>私はスランプを壁は18cm・スラブや基礎は15cmで指定します。20cmを越えたらやはり水分量が多いでしょうね。そちらはどれくらいだったのでしょうか ? >構造の要となっている東西の壁は30cm、スラブは40cm、基礎は50cm、その他は18cm これ、違います。スランプというのはコンクリートを打つ前に、生コン車からコンクリートを少し取り出し、試験をします。コンクリート温度・気温・スランプ試験・コンクリート中の塩分量測定・コンクリート中の空気量などです。そのうちスランプというのは、高さ30cmの鉄製のコーン(円錐状の一部のような形)の中にコンクリートを入れて、そのコーンを引き上げます。するとコンクリートは、だら〜っと自分の重さと柔らかさによって形が崩れます。その時の、コーンの高さ30cmから、形が落ち着いたコンクリートの高さまでの差をスランプと言います。ですからスランプは最大でも30cmを越えることはありません。スランプ18cmより15cmのコンクリートの方が硬いということになります。多分、H氏の書かれたのは、コンクリート壁などの厚さの寸法だと思います。設計図の構造図か特記仕様書にコンクリートの種類としてスランプ値も書かれているはずです。 それにしても、コンクリートの強度試験をしなかったというのは可笑しすぎます。と言うことは、設計図指定通りのコンクリートが打てたかという検証のしようがないですから・・・。質問ですが、型枠の脱型(だっけい/型枠を取り外すこと)はコンクリートを打ってからの期間はどれくらいだったのでしょうか
?脱型までの期間は、日数がスラブや梁底では28日または4週強度がでたのを確認したとき。壁などでは・・・と、決まっています。その指標とするためにテストピースを採り1週間・4週間・型枠脱型を調べるためと何回かの試験をすることになっています。それをしないと、どんなコンクリートを打ったかわからないということです。設計強度が210kgf/cm2要求されるところを180kgf/cm2のものを使用してもわからないということです。仕上材料ならともかく、躯体という構造に関わるものですからその試験をしないという考え方は異常です。本来必要なことをしないで建物の金額を安くするなら、ペアガラスを取りやめるべき
>当初、鉄筋の曲げが必要だった箇所は、「溶接する方が楽だし、強度も出る」という現場の意見によりそのように変更。しかし溶接箇所は数千にのぼったとのことです。 これも胡散臭い話ですね。鉄筋の種類は溶接に適したものとそうでないものがあります。どちらを使ったのでしょうか、鉄筋の種類は設計図ではどうなっていますか
?実際に現場に納品された鉄筋はどうだったのでしょうか ?
>そうこうしながらも、もし彼が受賞することになったら、 それで彼はハッピーなんでしょうか。万事オッケーなんでしょうか。 安藤忠雄氏に次ぐ、小規模住宅での日本建築学会賞受賞、 その栄誉によって建築家としての彼の未来は開かれていくのでしょうか。 そんなもんなんでしょうか。 今年の建築学会賞はもう結果がでています。申し訳ないのですがH邸で学会賞をとるのは無理だと思いますし(まぁ、僕が言う話でもないけど)、入っていません。特に単体の住宅でというのは難しいですね。よほどのことがないと。普通は、一連の住宅作品といって幾つかのものでとります。 学会賞は栄誉です。その後いろんな学校から講師や助教授で招かれたり、仕事も飛躍的に増えるでしょう。また、各種講演会などでひっぱりだこですね。多分人生が変わるでしょうね。当然、建築の設計を職業とする私もいつかは・・・と思っていますが、まだまだ修行しないと難しいし、まぁ、殆ど不可能な夢ですが、目標を持たないと人間進歩しないですからね。
現場監督のできによって建物の出来上がりが左右されると言っても過言ではないと思います。ですから、結果を見ると現場監督のできが悪かったし、それを監理する設計事務所の担当者のできも悪かったということになります。建築を造るという事は過程で幾ら頑張っても、結局、お客さんが喜ばなければそれまで、結果が全てという事です。 >審査員「冷暖房はガスですか?」
笑うに笑えない会話です。私は今回のメールをいただくまで、施工が殆どまずくてそれが原因で設計事務所との関係が悪化したと捉えていて、設計者を擁護する立場に近かったのです。しかし、コンクリート試験や鉄筋のこと、また、この笑える会話を読んで設計事務所にも大いに問題があると捉えるしかありません。 結局、この住宅の仕様を一番理解しているのは建て主だってことですか ?この会話だけで設計者への信頼がなくなっていった様子が伝わってきます。同じ設計を職業とする業界の者として、謝りたい気分です。我々は、設計した家に来るお客さんに建て主が『この設計者はいいよ』と宣伝してくれることによって仕事をもらっています。しかし、H氏は二度とそういう宣伝はされないことでしょう。設計事務所への不信感を話されるということは、折角設計事務所へ行く仕事がメーカーに流れることとなりそれは、設計事務所全体の不利益でもあります。
1999/10/12/19:02 長村さま いえ謝っていただくなんて、そんな。 実は竣工前に、知り合いに「建築家を紹介してくれ」と頼まれ紹介してしまった(?)のです。当時は、まだ彼を信頼していましたし、彼しか知らなかったので。しかし知り合いの家は2世帯だったのですが、出されたプランを両親がどうしても気に入らなかったらしく、結局断ったとのこと。ぼくも申し訳なかったです。
スランプについて
図面の後ろのほうにある構造図面をひもといてみると、梁についてはスランプ12〜18cm、その他はすべて18cmとなっていました。 また笑い話なのですが、
コンクリートの強度試験について。
鉄筋の曲げを溶接に変更した件についてはそれ以上のことはわかりません。調査するにしても時間がかかると思われ、またわかったとしてももう変更はきかない。 あとは祈るしかないでのしょうね。(笑)
学会賞はやはり栄誉なのですね。ぼくもこれが入ったら賞自体を疑うでしょう。彼にとっても更正の(?)チャンスが失われるというもので、これでよかったのではないでしょうか。しかしもし、ぼくのページが受賞を邪魔することになったとしたら、相当恨まれるであろうことも覚悟していました。でも幸か不幸かそんな影響力はなかった、というか受賞の資格はもっと歴然と厳しいようで安心しました。 今後リビングレポートを更新する場合、長村さんよりいただいたメールも引用させてもらってかまわないでしょうか。できるだけ誤解のない引用をこころがけるつもりですので。具体的にどのように更新するかは、まだ考えてないのですが、引用をお許しいただく際もお名前は出さない方がよろしいでしょうか。
H さんへ >重量感のあるコンクリートより「白っぽいニュートラルな感じのコンクリート」を希望しました。 その後提出された図面には「必要な強度を満たす白コンクリート」という脚注が記入されていました。指示って、そんなものでいいのかなと思いつつ、 H氏の要望は「白コンクリート」ではないはずですね。乾いた感じのする仕上がりなのではとおもいますが
?
>コンクリートの強度試験について。 最終の見積もり書をひもといてみたとことろ、 捨てコンについては実施されていたようです。圧縮破壊試験が4回で10万となっています。その他の部分では、この項目は「中止」となっています。 今更言ってもどうしようもないことですが、見積書に書いてあるからと言ってそれが現実になされたかどうかはわかりません。その証拠となるものは試験結果成績書ですが、多分提出されていないのでしょうね。捨テコンで強度試験をするくらいなら躯体でやるのが常識です。10万円ってどうやってでた金額か不思議ですし、その見積書を設計者がチェックしているとすれば、あまりにズサンかと思います。監理業務というのは設計図に書いてある仕様の品質をチェックすることですから圧縮試験をしないというのは監理業務を放棄したに近いことです。 >学会賞はやはり栄誉なのですね。 ぼくもこれが入ったら賞自体を疑うでしょう。 それにしても結果くらいお客さんに伝えるのが礼儀だと思いますが ? >今後リビングレポートを更新する場合、 長村さんよりいただいたメールも引用させてもらってかまわないでしょうか。 私は自分のコメントに責任を持って書いていますから、実名で結構です。ただ、メールは私信として書いているため、ウェブ上で垂れ流しになることを想定していないので、とりあえずチェックさせていただきたいと思います。
1999/10/20/14:21 H氏にメール掲載の許可をいただきました。感謝いたします。 1999/11/29up 上記までをまとめた後も H氏とはメールのやりとりをしています。要約ですが追加したいと思います。 この建築家は、H氏を余程いいパトロンだと思ったのか(不具合が表に出る前の現場施工中に)『この住宅を売ってもう一度別の場所で私の設計でやりませんか』とH氏に言ったらしいのですが(あなたみたいなお客さんばかりだといいのに・・・という意味でしょう)、冗談とはいえ口に出すべき事ではないでしょう。私達は建て主のためのフルオーダーの住宅を設計するわけです。それが他人にとってのいい住宅とは限りません。自分の設計した住宅が売りに出されたとしたら、その理由はとにかくとして私はすごくショックだと思います。建て主と同じく自分自身にその住宅に対する愛着があるからです。それを売って・・・と口に出せるという事は、愛着もない単にデザインという付加価値のついた商品としての住宅としての捉え方しかしていない証拠ではないでしょうか ? それは、詰まるところ、自分のしたいことをしただけの設計だったということを表しています。 また、この建築家は、『「賞」には一切の興味がない。建築賞はひとつの「建築ゲーム」を楽しむためのプロセスだという。今までの建築で賞のために計画されたものなどわずかひとつもない。』という内容をメールでH氏に伝えているのですが、我々のようにまじめに建築に取り組んでいる事務所としては、どう表現しようと「建築ゲーム」などと言われたら驚いてしまいます。建築主にしても『ゲームって何じゃい ? 我々は真剣なのにそれに何千万もつきあわされるわけかい ?』って感じますよね。ゲームとして考えてもいいのは建築家の自邸くらいではないでしょうか ? 現在、H氏のサイトは閉鎖されています。理由は設計事務所から 「張本人」は施工会社で、自分は業務を全うしたし、僕が行ったサイトでの発表はいわれのない名誉毀損である、場合によっては裁判でそれを証明する(本人の表現では「国家のジャッジ」) と言われたためサイトの内容を見直しているところのようです。そこで、設計事務所の業務にたいしての質問を受けました。工事監理報告書を提出する義務が法的にあるのか ? また、不具合が施工会社の施工に責任があった場合その施工会社を紹介した設計事務所に法的責任がないのか ? という二点です。 僕自身これまで、工事監理報告書を提出することについて何の疑いもなく当然の業務内容だと信じてきたのですが、法的根拠があるのかと聞かれて調べてみたのですが、特に規定はありませんでした。 例えば、日本建築士会連合会の設計・監理業務委託契約書では
工事の確認及び報告としてとあります。 これにしても「報告」の仕様までうたってはいません。報告内容は各自に任されているようです。文書であろうが、口頭であろうが規定はないですね。ある意味、設計監理も商売のうちだから、その差は人それぞれでしょう。デザインが強い人は書類整備が苦手かも知れないし・・・その反対もあり得る。ってことでしょうね。建て主としては設計監理を委託する前にどのような成果品が提出されるかということも確認しておくことが必要かも知れないということですね。 また、工事請負への協力として 施工者の選定についての助言などとあります。しかし、助言である限り法的責任は無いように思えます。これは、あくまで工事の契約は建て主の責任であり、設計事務所がその建設会社を推薦してもそれはあくまで「助言」であることを頭に入れておく必要があります。ただのアドバイスにすぎない・・・と。 それに応えてH氏から手厳しいメールを頂きました。 ということは、「監理」や「監理業務」というものを規定する法律はないということですね。建築の現場で「監理」の重要性が説かれ、客もそれを求めるけれど、実は「監理」の中身に絶対的な基準はない。 つまり「監理」というのは、レストランで店員のマナーがいいとか、料理が出てくるのが早いとかいった、ある種の付加価値サービスである。それによって料金が割り増しになっても、それはあくまでサービスチャージであり、お客さんが不満を持ったとしても「お気に召さないならもう来なくて結構」で済ませてしまえるサービスということですね。 家づくりでは「こんな店2度と来るか」と捨てぜりふをはいて帰るわけにもいかず、契約書を交わしたとしても、解釈しだいで逃げ道はいくらでもつくれる。よって今回のような事態となる。 これは、すごい真実ではないでしょうか。 料金に見合わないサービスでお金を取る建築家はこれからも暗躍し、長村さんのような建築士と出会えた施主はただただ幸運だったということになる。 長村さんはご自身のHPの意味を「私に頼まなくても設計事務所に頼むだろう誰かに設計事務所がしている仕事を理解して欲しい」とおっしゃっていました。そのことにも大きな足枷となる事実ではないでしょうか。
>長村さんはご自身のHPの意味を「私に頼まなくても設計事務所に頼むだろう誰かに設計事務所がしている仕事を理解して欲しい」とおっしゃっていました。そのことにも大きな足枷となる事実ではないでしょうか。
そこで、胡散臭いリップサービスをしてもしょうがないので、それをお客さんが判断できる情報を公開しようと思って、最低私の事務所はこの程度の「図面」を描き、「議事録」はこういう内容のものを提出しています。・・・というサンプルとして「NO邸」の例で公開することにしました。 今回のメールのやりとりが発端となって、このサイトの方向付けだけでなく自分の仕事を見つめ直すことができました。RKクン・H氏のおかげですね。 1999/11/11/19:27 A氏からメールを貰いました。 『世の中にもの申す24』読みました。私はまだ、コンクリート打ち放しの経験もないし、設計者・監理者としての経験もとても浅いので、長村さんや「Hさん」がこういったメールの交換記録を公開して下さる事にとても感謝します。 設計・監理者として現場においてどういう検査をし、なにを建て主に報告するかということについてなどの業務内容に統一の仕様がないという業界のあり方に問題がありそうです。他人の失敗談として読むのではなくて、それを自分に照らし合わせて初心に戻って設計・監理の意味を確かめたいですね。 1999/11/12/14:01 HI氏からメールを貰いました。 (HI氏は土木の設計・監理者です) H氏の住宅建築と異なると感じた点がありました。土木のコンクリート構造物は細かい基準書があり、それはもう大変です!うちの現場はそれより厳しいことをしています。 スランプ試験はもちろん、捨てコンは破壊試験したかな? それ以外は全部です。スランプに適さないコンクリ車を2〜3台帰したこともありました。朝一のミキサー車は、前日の掃除でタンク内に水が残っている事が多く良く注意しました。かなり柔らかいです! コンクリのつぶしは生コン屋さんが無料でやってましたね。一気に打設するので、時期が重なりほとんど毎日つぶしに行った時もありました。 鉄筋を溶接するなんてもってのほかでした。私は鉄筋が交差する場所は全結束で全て鉄線でやりました。スターラップや曲線部等も結束です。かぶりもしっかりチェックです。あと主筋と配力筋が反対になっていて全部ばらして組み直しにした事もありました。現場代理人はコンクリを手配済みだったので泣きついてきましたが、断固として拒否しました。あの時はちょっとビビッた。 脱型も慎重に代理人と駆け引きしながらやりました。土木ではあまり見た目を必要以上に意識しないので、少々のコールドジョイントやジャンカは、こんなもんだよってかんじで諦めていました。エアが入ってぼろぼろになっているところは金槌でバンバンはつりました。はいやり直し、ここだめって感じです。雨の時に無理矢理打設したスパンがあって、代理人は大丈夫といっていましたが、私は「もし基準を満たさないほど波打ったらやり直しですよ」と約束しました。脱型後、波打っていました。約束どおり、やり直しです。あのコンクリのガラ(300t近い)はもったいなかったです。「やっぱり止めとけば良かったね」とは代理人の言葉です。止める勇気も必要なんだなと思いました。 ここまで土木は細かくやっています。ちゃんとやってるのは一部の事かもしれないが・・・。 反論ではないのですが、H氏の住宅が特殊なケースで建築がそういうやり方をしているわけではなく、土木と同じように検査もしますし、厳しい監理も我々はしています。鉄筋コンクリート造でありながらコンクリートの試験を省いてしまう監理は、建築においても異常であると思います。
鉄筋の溶接については、近年溶接できる成分を持った鉄筋が登場していて、仕様書でその鉄筋を指定してあれば、溶接も可能です。H氏の住宅でそういう仕様の鉄筋を使っていたかどうかはわかりません。 HI氏のメールで大切な意見としては『止める勇気も必要なんだ』ということです。そうしないばかりに問題が大きくなったケースは数え切れないでしょうね。工事監理に関わる人はこの言葉を忘れてはいけないと思います。 esquire(エスクァイア日本版)11月号にこの住宅が掲載されています。 建築家のコメントとして 『今までの建築家は、ただ芸術をつくっていた。でも、これからの建築家は芸術をつくると同時に日常をつくることも必要です。医療と同じく、事前に状況を詳細に説明する義務もでてきます』 『注文もクレームも多かった。でも、ときにはプールに浮かぶ葉っぱを眺めて感じることのできる、日常のひとこまを伝えてくれたりもしました。ささやかなことだけど、日常にそういうことが感じとれる家を建てることはできたかなと思います』 『とても勉強になった住宅づくりでした。施主の要求に対して通常の方法で対処するだけでなく、踏み込んで新しい答えを導けるようになりました』 とのことです。この雑誌には幾つかの都市型住宅が掲載されています。和泉はこの幾つかを観て『長村さんは建築家になれないね(ならなくてもいいという意味です)』と言っていました。僕もそう思います。衣・食・住は生活する上で最低限必要なものです。デザインやファッションはゆとりのある生活から生まれますが、最近の生活では衣・食・住の全てがファッションになりつつあるようです。「衣」については言うまでもなく、「食」では、味の違いもわからないのにワインや料理を語る人もいるし、とうとう「住」もファッションだなぁと・・・この雑誌を観て感じました。 僕は、勘違いをしていたのですが、H氏とのメールの中で「日本建築学会賞」について『今年の建築学会賞はもう結果がでています。申し訳ないのですがH邸で学会賞をとるのは無理だと思いますし(まぁ、僕が言う話でもないけど)、入っていません。特に単体の住宅でというのは難しいですね。よほどのことがないと。普通は、一連の住宅作品といって幾つかのものでとります。』・・・と書いたのですが、昨年度のものについて結果がでているのであって、2000年発表のものはまだ審査中らしいです。 ・・・で、この話題の住宅は『一次審査』を通過したそうです。 |
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