建築設計事務所の仕事 6 |
2001/04/04 得する建て主・損する建て主について
今回も、建築Webのアンケートに投稿しました。 ・家づくりがスムースに進まないときの主な原因は? 『欠陥住宅』という言葉が定着してしまった現在の住宅事情ですが、なぜこのような建物が造られるようになったのかを考えたことがありますか ? かつてはこういう建物は少なかったはずです。 建て主の方や、住宅を建てたいと考えている方達と話していると、共通しているのが『要望はあくまで高く、工費費や設計料はできるだけ安く』です。私も無駄を無くして意味のないものにお金を出さないという点では同じ意見ですが、それ以上に安くすることは疑問です。 建設会社や工務店の社長さんや営業の方が建物を造るわけではなく、実際は下請けの職人さん達が造っていることは常識として皆さんはわかっていると思います。建て主の方が価格を値切りたいという気持ちも理解できますが、そのしわ寄せは職人さんに行くわけです。職人さんは技術者ですから、もともとはいいものを造りたいと思ってその職業を選んだのでしょう。しかし、毎回値切られて生活さえままならないようでは、手を抜く ( みんながそうではありませんが ) ようになるのもわからないでもないような気がします。勿論、手を抜くことを肯定しているのではないのですが・・・。 『自分だけ得をするというのはありえない』ことを頭に入れておくべきだと思います。設計料も工事費も適正に支払って、建て主・設計者・施工者の三者がそれぞれやる気を出してみんなハッピーになるのが一番ではないでしょうか ? 建て主の立場から無駄を無くすには、『私は素人だから』と逃げない。わからないことを聞いて図面や見積書を理解しようと努力することだろうと思います。 ・あーあもったいなあと思ったこと 建て主の『ひとこと』で設計者や施工者の心が離れる事があります。『お金を払っているのは私なのだから』という言葉です。確かにその通りですが、周りの人のやる気を無くするにはこれ以上の言葉はありません。最後の切り札としては効果的です。『両刃の剣』となるので、これを口に出すときは覚悟して使う必要があるでしょう。私達にすれば『それをいっちゃぁ、おしまいよ !』というところです。 それはそれとして、議論するほうがよほど良い効果が現れるのではないでしょうか ? 同じクラスの他の事例を多く見て勉強していれば、要望が金額と照らし合わせてずれていることは建て主自身で気付くはずです。そうすれば設計の後戻りもなく、効率的な打合せができそうな気がします。 ・非常にうまくいった事例 『家具を買いたいんだけど、つきあってくれる ?』 『木を植えたいんだけど、どの辺がいい ?』というような相談があったときにはうまくいっているなぁと嬉しくなります。 建物に不具合があった場合、最初に設計者に連絡がくるときはうまくいっている証拠です。我々にとって建物の不具合は、原因がどこにあったかを解明するために知っておくべき事です。設計が原因なのか、それとも監理か施工なのかを・・・。原因を確かめた後に、その改修方法を施工者と打合せて見積もりを出してもらいます。それをチェックし誰が負担するかを決め、建て主の同意を得て工事を行います。しかし、建て主と疎遠になったり関係が悪化していれば、直接施工者に連絡が行くことでしょう。 ・プロの目から見て困る建て主とは? 住宅には、マンションやアパートなどの『共同住宅』と、戸建の『専用住宅』があります。共同住宅の場合は、入居者を特定できないために不特定多数がある程度満足できるように平均的な設計をします。しかし、専用住宅の場合は、その建て主に特化した設計になるわけです。 設計中に建て主が、親戚や近所の人達・・・最近ではネット上で不特定多数の人へ評価をなげかけたりという場合もある・・・の意見を聞かれる場合があります。冷静な建て主であって、単に第三者の意見としてそれを判断材料の一つにする場合は問題ないでしょう。第三者にとって、その建て主とは家族構成も趣味も違うことを理解した上での意見として聞いて欲しいモノです。 親戚の大工さんはこう言った。近所の誰々さんはこう言っていた。・・・と、相談されます。あくまで、自分の家であって、意見を聞いた相手の家ではないのですから、『で、あなたはどうしたいのですか ?』と私は言いたいのです。 ・現場でこれだけはやめてほしいこと 現場にはいるときに心得ておくことの一つに『建築中の建物は、まだ完全に自分の持ち物ではない』ということがあります。工事中の建物は施工者の管理下におかれているということです。人の安全や火災など様々な法規の枠の中で現場は管理されています。 ですから、『自分の家だから・・・』と安全も考えずに勝手に入るのは危険です。ヘルメットも被らなくてはいけないでしょうし、ひらひらした服は危険ですし、歩きやすい靴を履くべきでしょう。そのためにも、監理者 ( 設計事務所など ) と現場管理者 ( 施工者の現場担当者 ) に同行してもらうことが一番です。 その次に大切なことは『気に掛かることや要望があれば、監理者( 設計事務所 ) に伝える』ということです。職人さんに伝えるのが早くて良いじゃないか・・・と思われるかも知れませんが、情報の系統を乱さないことはとても重要なことです。職人さんは建物全体を把握しているわけではなく、自分の造る範囲とその取り合い部分を理解しているに過ぎません。例えば設計図から変更をしようとするときには・・・ 建築士法 第四章 業務 (設計の変更) 第19条
・・・と決められています。雰囲気でこうしたいというのは困るわけです。簡単な例をあげます。壁に貼るクロスの柄が現場で実際に貼ったモノを見てみると気に食わなかったとしましょう。そこに転がっているカタログで、これに替えて欲しいと伝える。この時に何が問題になる可能性があるかというと、まず、その貼替費用はどうするか・・・という金銭的な問題があります。それは単に施工者との同意があれば済むわけです。しかし、設計図でそのクロスが不燃材や準不燃・難燃・・・などとうたってあれば、変更後の材料がそれに合致するかが大切です。デザインによっては建築基準法に満足せずに完了検査に不合格になる場合もあります。 構造にからまない、デザインだけで選ぶように見えるクロスでさえ法律の枠に縛られる場合もあるわけです。変更に際しては建築士法で『設計者の承諾を得ること』を求めているのは、建物全体を把握しているのは設計者であるからに他なりません。 ・設計依頼、工事依頼はどうしてほしい? 設計事務所は、 建築士法 (書類の閲覧) 第24条の4
というように、設計依頼が確定されていない場合でも、『これまでにどういうモノを設計していて、その時の図面や書類を見たい』という要望があれば、それを見せる義務があります。なかなか、いくつもの事務所を廻って閲覧させてもらうことは神経を使って大変でしょう。しかし、何十年も使う家を手に入れるためならば、それくらいの労力を払ったほうがお得ではないでしょうか ? 設計事務所側にしても、後からどうも合わない・・・と言われるより、幾つかの事務所を比べて趣味のあうことを確かめて選んで貰う方が助かります。 ・家族の意見調整の方法 我々にとってはせっかく設計するのですから家族全員がある程度満足するのが嬉しいのです。しかし、家族内部にも力関係があって、要望を言いづらい立場の方がいます。その家庭によりますが、二世代同居の場合で建て主が親世代のときの若奥さんとか・・・。 そのためにも、可能ならば打合せには家族全員が参加してくれるといいですね。内容によっては、表情から要望を読みとることができる場合もあるからです。 |
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