建築設計事務所の仕事 5 |
2001/03/12
子供室について
◆この度、建築Webでは、「住まいについて考える」というコンテンツを新たに加えました。3月のテーマは、「健やかな成長を住まいから考えてみよう・・・子供と住まいについて」です。つきましては、お忙しいところ恐縮ですが、このテーマについて、ご意見やご提案をお寄せいただけませんか?例えば、 ・子供にとって良い住まいとは、問題アリのすまいとは、
など、様々な視点からの様々な方からのご意見でページを構成していこうと思っています。 上記について投稿しました。 ・子供が健やかに育つ住まいとは この問題は、建築というハードウェアが、子どもの成長を見守るというソフトウェアに与える影響を考えることになると考えています。 外国のホテルは、それがどんなに安いホテルであっても、天井高が3〜4mくらいありました。その天井高を体験したとき、日本の2.4mの天井高で育つのとは何かが違ってくるだろうと感じました。しかし、それは決定打ではないでしょう。建築が人間に与える影響は少なくはないけれど、本質は家庭環境や教育にあるのではないでしょうか。 住宅において、主役は子供ではないと私は捉えています。しょせん子供は独立していきます。その子供よりも夫婦(建て主自身)のライフスタイル(あるいは住まい方)を考えた住宅であるべきでしょう。ゆとりがあれば子供部屋があってもいい、しかし、それは絶対条件ではないでしょう。私には、独立した鍵のかかる部屋を与えることに利点はないだろうと思えます。 しかし、『世間並みに』という意識が頭の中にある建て主には、なかなかそれを理解してもらうことは難しいのが現状です。そこで、我々にできるのはせめて子供室のなかを窺うことの出来るような造りを考えた図面を提案するくらいでしょうか。 例えば、リビングに続く中庭に面して子供室の窓が開けられているとか、壁は天井までのものではなく上部が解放されているとか等の提案はこれまで受け入れられたことがあります。 子供が大きな音で音楽を聴くから壁を防音に・・・ではなく、自分で稼ぐようになってから彼(彼女)が自分で好きにやればいいじゃない、それより今は大きな音を出すことで、他の家族や近隣に迷惑をかけることを知る時期なのではないでしょうか。お金をかけて子供室の性能が上がれば上がるほど、親の思っている方向とは違う方向にいくような気がします。 ・喘息やアトピーなどの病気を持つ子供のための住まい&子供部屋とは この原因の一つが、ホルムアルデヒドなどの揮発成分からであるとされています。確かにそれが原因のこともあるでしょうし、化学的揮発成分が身体によくないことは間違いないことです。しかし、アトピーなどは食物に原因がある場合も多々あって、単純に住宅の構成部材を替えれば治るというものではありません。『健康住宅』という言葉がはやり言葉のようになっていますが、病気を持たない人にとっては、ほどほどが良いのではないでしょうか。言葉に踊らされないことが大切です。 その名の下に、ただ価格をつり上げたような商品が出回ることを防ぐために、何が必要かを建て主自身がよく考えなければなりません。たとえいい性能をもった素材であろうと、使い方や使う場所を間違えれば何の意味も持ちません。設計者自身、『健康的な材料』という名前に振り回されることのないように気を付ける必要もあります。 「 『珪藻土』を使いました。健康的な材料です・・・」といっている住宅を見てみると、外壁に塗ってある。珪藻土自体は吸放湿性を持つといわれています。しかし、外壁に塗るとなると、防水剤を添加しているわけで、本来の性能とは違った使い方になっています。単に素材の持つザラザラ感が欲しかった設計者は、健康的な素材という名を借りて、実は自分のしたいことをしたに過ぎないのではないか、珪藻土の性質をきちんと理解した上で使用したのか、と驚いてしまいます。 内壁に使用する分についてはある程度の効果はあるでしょう。 昨今は、『健康』という接頭詞を付けておけば、誰も文句を言わないだろうと、錦の御旗を振りかざしている感があるようです。しかしこれからは、その性能や使い方について議論する時代が来るでしょう。その時を待つよりも、ユーザーがもっと厳しい眼を持つことでこの風潮が変わることを期待します。 ・子供部屋の内装デザインとその材料は?
汚したり壊したりするから、子供が小さいうちは安くて汚れないモノを・・・は正しいかも知れません。大切に丁寧につかうことを学んでほしいから、末長く使えるもの、いいものを与えたい・・・これも正しいかも知れません。どちらが正解かは、両親の教育とモノの価値観で決まるのでしょう。建て主の価値観にそぐわない材料や家具を設計者が提案しても、意味がありません。 しかし、個人的には・・・
本物で造られたものからは会話も弾む。
こう考えると、家族が集まれるように工夫された平面も確かに大切な要素ですが、それだけでは感性を触発はしないのではないでしょうか。脳の働きは、匂いをかぎ・触れ・聞き・味わい・観るということから活発になります。これは住宅を構成する素材とも関係するのではないかと感じています。よい材料は嗅覚・触感・視覚の3つの感覚を刺激します。これに加えて好奇心も刺激されそうな気がします。 ・住宅全般について 気密性を求め、揮発成分の少ない材料を使い、狂いの少ない人工素材を使うという現在の建築の行く先は、『クリーンルーム』なのでしょうか ? 空間をパッケージ化して設備機器によって空調し、日本全国どこでも同じ室内環境を作ることが正解か ? いや、それは違うだろう ! ・・・と、建築家の内藤廣氏も強くいっています。室内が気持ちのいい温湿度に保たれることは、必要なことでしょうが、私は『クリーンルーム』を作りたいとは思いません。冬でも、一時間に一回くらいは窓を開けて換気をしてもいいじゃない?春や秋のいい季節には、窓を開けて風を入れてもいいじゃない? そのためには、窓を開けると隣の家の窓がある・・・では困ります。その不都合をプランニングによって解決するのが我々設計者の仕事です。 断熱性や気密性を高めて、少量のエネルギーを有効に使うことはこれからの時代において必要なことです。それは建築としての一つの『解』には違いないでしょう。しかし、その数字に一喜一憂するのではなく、風や温湿度や天候を感じることに住宅設計の主をおきたいものですね。 |
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