建築設計事務所の仕事 7 work index

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古い建物の改修について

築180年以上の建物と聞くと、大多数の方は太い柱・丸太の梁・高い天井高・・・というイメージが頭の中に浮かぶのではないでしょうか ? でも、それは作られたイメージです。古い建物ってお城からお寺・神社も含まれますが、まぁ普通僕たちが改修するのは田舎屋・町家・茶屋などです。最初に皆さんが感じたイメージは『田舎屋』でしょうね。町家・茶屋というのは、細い柱、へろへろに近い梁・低い天井高であって、最初に頭の中に浮かんだ建物とは正反対でしょう。

今回私が改修の設計をしているのは、茶屋です。お茶屋にはお茶屋の造り方や成り立ちというものがあります。同じように町家には町家のあり方。田舎屋には田舎屋に似合うモノがあると思います。

古い建物を目の前にしたとき、改修して用途が変わるから、もとの建物の成り立ちは関係ない・・・などと、僕には割り切ることはできません。何故なら古い建物には木と同じように年輪があるように思えるから、それをぷっつり切り飛ばして考えるなんて・・・とてもできない。とすると、最低その建物が建ってからどう変化してきたか、また、用途によってどういうつくられ方だったのだろうか・・・と建物から学ぶことは必要だろうと感じています。

お茶屋は基本的に遊ぶためのスペースですから、座敷には押入はありません。床も最低限掛け軸などを入れておける置き床があるくらい。そのかわり、芸妓さんが踊りを舞うためのスペースである『控えの間』が必ず付きます。お茶屋は、町家よりも繊細に作られています。木虫籠 ( 『むすこ』とか『きもすこ』 )と呼ばれる格子が窓に付いています。木で作られた虫籠と表現されるに相応しいような繊細でか細い格子。町家に付いている格子とは比べモノにならない細い寸法でできているわけです。

そういうことを知ると、自分の趣味でこの建物に分厚い100mmくらいの厚さの『どーだ ! 立派だろ』というテーブルを持ってきたときには、とんでもない勘違い野郎になってしまうことがわかります。多分、どこまで薄く見せることができるかが、こういう建物には似合っているのでしょう。ですから、田舎屋である珠洲の住宅でリビングに置かれたような分厚いテーブルを設計するようなことはしないでおこうと決めました。設計者は裏付けのない一般的なイメージや個人の趣味で寸法を設計するのではなく建物の種類で、微妙な寸法を使い分けないととも。

無知で設計者自身が恥をかく分にはまだいいのですが、店舗の場合その経営者が恥をかくことになります。僕は『和』について勉強したわけでもないし、金沢で育っていながら『和』が身に付いていたわけでもありません。ですから、今回の改修工事では、最低限恥をかかないこと・・・というのが、僕の中のひとつのテーマでした。

古い建物には木と同じように年輪がある・・・と書きましたが、これは本当です。建物を見て文献を調べて1820年には、この街が再開発され建てられた・・・とわかっていたので、その歳月を頭で理解し、かなり不動沈下し傾いて、また虫が付いているのを見て時間の経過を感じていました。

しかし、僕にとっては『ふーん』くらいで、別に感動はないし、『こんなボロボロのをどう再生させるの ? 困った !』というのが正直な感想でした。ところが、昭和女子大学の平井先生が手弁当で建物の調査に来て下さったときに、指示通り、壁をほじくったのです。すると、何層にも塗り重ねられた仕上塗りが十二単のように現れたのを見て『ぞぞぞっ』と鳥肌が立ちました。数えると14層くらいの断面が出てきたのですが、まさしくこれは建物の年輪でした。十数年ごとに改装が行われたのでしょうか ? 僕にとって古い柱や梁よりもこの壁だけは残したいと感じた一瞬でした。


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