建築設計事務所の仕事 過去掲載分-03 work index

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1999/10/14 好きな建築家

私が好きな建築家の一人に「竹原義二」氏がいます。大きな施設よりも住宅の設計が多いのですが、私の目標としている方向の先にいる方だと思っています。アプローチ廻りやプランニングも明快さが好きですし、設計に「巧」を感じさせられます。最近は木造で壁柱(120×360とか180×400の柱を連結して壁状にして耐力を負担させるらしい)でプランニングの自由度を増そうという試みをされています。そういう設計のうまさは当然好きなのですが、何よりもイイなぁと思うのは、発表されるときに必ず下請けの協力業者の担当者名まで掲載していることです。

普通は建築工事・電気工事・設備工事の担当者くらいまでなのですが、竹原氏の場合、大工・建具・家具・厨房・植栽・型枠・屋根・左官・塗装に至るまでが載っています。設計がいくら良くても実際に造るのは職人さん達で、彼らがやる気を出すか出さないかで、できるものまで違ってくることは明らかです。この辺をよくわかっていらっしゃるのでしょう。自分の名前が建築の雑誌に載る以上自信のある仕事をせざるを得ませんし、また励みにもなるでしょう。恐らく、厳しく緊張はあるけれど、いい雰囲気の現場なのだろうと想像します。


1999/12/09 小屋裏って

以前、父の事務所で設計をしているときに珠洲で『陶芸センター』という施設を設計しました。まだ、窯を自前で持てない新人が陶芸をする作業場と旅行者が陶芸をやってみる実習室とがある340m2程度の小さな建物です。木造の屋根を小屋組を見せての平屋建てを計画しました。確認申請を提出してしばらくして県土木事務所から『小屋裏に隔壁を設けて下さい』との電話がありました。あわてて珠洲まで行って根拠を確かめたのですが、理由は下記の通り。


建築基準法施行令/第4章 耐火構造、準耐火構造、防火構造、防火区画等
第114条(建築物の界壁、間仕切壁及び隔壁)
3. 建築面積が300平方メートルを超える建築物の小屋組が木造である場合においては、けた行間隔12m以内ごとに小屋裏に耐火構造若しくは準耐火構造とした隔壁又は両面を防火構造とした隔壁を設けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する建築物については、この限りでない。(イ)(リ)
一 第115条の2第1項第七号の基準に適合するもの(イ)
建築基準法施行令/第4章 耐火構造、準耐火構造、防火構造、防火区画等
第115条の2(防火壁の設置を要しない建築物に関する技術的基準等)

七 建築物の各室及び各通路について、壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。)及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げが不燃材料、準不燃材料若しくは難燃材料でされ、又はスプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のもの及び第126条の3の規定に適合する排煙設備が設けられていること。(イ)


な〜るほど。県はこの法規の『小屋裏』の定義を僕と違う解釈をしていることに気付きました。
僕は、最上階の天井裏を小屋裏と呼ぶと考えていました。県は屋根の外を表と考えてその裏側の小屋部分を小屋裏と呼ぶというのです。

なんかどうにも納得しきれないような気がします。法規の主旨を考えると、木造の小屋組を持った建物で普通通り天井が張ってあり幾つかの部屋に分かれているときに、ある部屋で火事が起こったときに、その部屋の天井が燃え落ち小屋裏を伝って他の部屋に延焼しないための隔壁だと思うのです。ワンルームで天井が張ってないときには、小屋部分に隔壁があったところであまり役に立ちそうはありません。・・・って主旨で県と打合せを重ねたのですが、相手にしてくれません。その日は仕方なく帰ったのですが、釈然としない気分でした。

数日間色々考えていたのですが、内藤廣氏の『海の博物館』を思い出しました。それで、それが掲載されている雑誌を持って再び珠洲まで出かけていきました。(雑誌を見せながら)「どうですか、やはり小屋裏と考えていないですよね !」と意気込んで言うと「他の県はどうかわからないけれど、石川県の見解は先日伝えたとおりです。野地板裏に石膏ボ-ドでも張ればいいじゃない」との返事。全く相手にしてくれないのです。それでも食い下がっていると「じゃぁ、大臣認定でも取れば ?」と・・・。

大臣認定っていうと法規の項目の中には「建設大臣の定める基準に従った構造計算によつて、通常の火災により建築物全体が容易に倒壊するおそれのないことが確かめられた構造であること」などという例外規定があって、建設大臣に直訴すれば・・・ってはずはなくて日本建築センターという機関で評定を受けてそれが通れば例外と認めて貰えるのです。しかし、それにはすごく時間がかかるのと小さい事務所ではそのノウハウがないために莫大な金額も掛かります。また、評定などやっていると契約の設計期間内で仕事が終わらないので、発注者からは「そんなに難しい設計しないで普通のを設計して」って言われちゃって孤立無援に陥るのです。

通常「大臣認定を取れば ?」って言われるとき、その意味は「忙しいから帰って !」というのと同義語ととらえるべきのようです。

あらら、そこまで言われちゃぁ、すごすご帰るしかないじゃないですか。しかし、納得できないのも事実。どう調べても小屋裏の定義は出ていないし・・・。く〜や〜し〜い〜。

諦めきれず、とった手段。内藤廣氏の事務所に電話して「海の博物館ではどうやったんですか〜 ?」と聞いたんです。悔しさのあまり恐れをなくしたような行動です。・・・ところが、『役所によって確かに見解が違っていて、そんなもん小屋裏のはずがないという役所と、小屋裏だという役所とがあります。後者の場合は○○○をすることで法規をクリヤしています』と親切丁寧に教えていただきました。オレだったらそんなノウハウを名前も知らない設計事務所に教えることができるだろうか・・・と考えてしまいました。教えて貰ったとおり図面を修正すると確認申請はあっさりと通りました。

多分、内藤廣氏の事務所でも同じ件で悩んだのでしょう。しかし、僕のように聞く相手もいなかったのに諦めずにいろいろ調べ廻ったのでしょうね。さすがです。その、なんとしても実現したいという強い意志が建築家への条件の一つでしょうね。単純ですが、これを機会に内藤氏のファンになりました。

それにしても用語の解釈が地方によって違うのは困りますね。皆さんは小屋裏をどう定義しますか ?

最近建築用語辞典を立ち読みしたところ、小屋裏の定義が書いてあって『最上階の天井裏のこと』・・・と書いてありました。それを見せたら県の見解は変わるのかなぁ ?


2000/09/04 坪単価について

建物の話をしていると必ず出てくる言葉に『坪単価』という単語があります。床面積あたりにどれくらいの金額がかかる(または、かかった)かを表す指標として使われます。

完成した建物の場合は、実物と坪単価を比べてこれは安くできているか、それとも高くついているかを判断するための材料の一つになると思うのですが、これから設計する場合に『あなたは、坪幾らくらいで設計できますか ?』と聞かれても困ります。

私達の設計には住宅メーカーとは違って『標準仕様』というものがありません。内容によって坪単価も違ってくるからです。
エアコンや浴室・キッチンの価格にはピンからキリまであります。どの辺で満足するかはお客さんによっても違うからです。平屋と2階建てでは延べ床面積が同じでも、坪単価は平屋が高くなります。外構や家具・設備など、どこまで含むかで全然違ってくるので、簡単に応えられないと説明しても、『あのメーカーは坪○○円でできるそうだけど ?』という返事が返ってきます。『じゃぁ、その内容はどういう内容ですか ? 』と尋ねると『さぁ ? 私達は素人だから細かいことはわからない』となることが多いんだけど・・・。

『車を買いたい、一台いくら ?』
『軽四ですか ? スポーツカーですか ? RVですか ? 排気量は ?』
『あのディーラーでは○○円だったけど・・お宅は幾らにしてくれる ?』
『ですから、どういう車を買いたいんでしょう ?』
『四人乗りで良いんだけど』
『ですから、四人乗りにも色々あって・・・はぁっ・・・』

という会話と同じなのですが。なかなか通じません。
実際にお客さんはカローラの価格で、クラウンを手に入れたい人が多いようです。そこを何とかするのが設計事務所ではないのです。冷静に判断してカローラくらいの予算しかないけど、そのなかで何ができる ? と尋ねるのが正解ではないかと思っています。カローラの予算で軽四を売りつけられないためには、やはりお客さん側も図面や見積書をある程度理解しないといけないと思いませんか ? 車の場合はみてすぐに仕様の違いが分かるけど、住宅はわかりにくいですから、勉強するしかないですよね。でも、骨董や美術品を見分けるよりは簡単ではないかと思いませんか ?

『坪単価』というのは建物が完成したときの指標であって、実は経年変化などの時間軸を持たないデータであると理解している人は少ないようです。

A事務所が設計したモノは、安価な材料を使っていて、仮に25年位すると大規模な改修が必要だとします。B事務所が設計するモノは、経年変化に強く長持ちして50年以上持つとしましょう。

A事務所設計  坪40万円 25年持つ
B事務所設計  坪80万円 50年持つ
(坪40万円だから25年しか持たない。80万円かければ長持ちするという意味ではないので注意。あくまで仮にの話です)

経年変化を考慮すると、両方の坪単価は同じということになります。何年目くらいにどういうメンテナンスが必要で、何十年目にどういう改修をしなければならないか、という打合せが本来必要なはずですが、お客さんにそれを伝えている事務所はどれだけあるでしょうか ? っていうかぁ〜、そんな説明を受けたことのある建て主っていますか ?

A事務所・B事務所どちらの設計が良いかという答えはありません。どちらでもいいのです。A事務所設計のものだと二度新築を楽しめるし、若いうちに住宅を持つことのできる可能性が広がる。B事務所のモノは永く使い続けることができるけど、イニシャルコストがかかる。ただ、お客さんがそれを理解しているかどうかだけが問題なのです。

しかし、お客さんはもっと永く使うと考えている人が多いのではないでしょうか ? 25年くらいで・・・とは、考えていないように感じるのです。ローンが終わって建て直しか大改修とは思っていないはずです。

ところが日本の住宅は、平均して22年で建て替えられているそうです。建て主の方 ! そんな意識はありますか ?

転載していただいています 2003/01/31up
http://www.jttk.zaq.ne.jp/babah902/Arch/Essue/ESSUE/essue.htm
http://plaza.rakuten.co.jp/enakenak/015001
 

※転載されていないか網を張っているわけではありません。たまたま設計中に軽四の寸法を知りたくてGoogleで『軽四 寸法』で検索・・・そのときに数ページ目で見たことある文章の一部がヒットしたので見たら・・・っていうホントの偶然でした。(読者の方からどうやってみつけたの・・・という質問があったので追記しました)基本的には転載されることは光栄だと思っています。2002/02/05


2000/09/07 工事業者の経営状態について

設計作業が大詰めを迎える時期がくると、建築主と誰から見積をとるかを打合せします。大抵はお客さん推薦と設計事務所推薦のところ、三つくらいを候補に挙げて図面を渡して見積をお願いすることになります。

お客さん推薦は友人・知人・親戚かまたはその紹介が殆どのようです。設計事務所の推薦は、これまでに工事をやってくれたところで、印象が良いところが多いと思います。たまに建設会社からバックマージンを貰って設計料の足しにする事務所もあるように聞きますが、それは問題外だと思います。

どちらにしてもこれまでにやった建物を見せて貰ってから見積の候補を検討するのが正解でしょうね。何を造っているかも知らないで、大金を掛ける工事を依頼するのは信じられない行為ですから。

・・・で、設計事務所推薦の工事業者が実際に工事を請けることになったとします。工事中にその建設会社が倒産した場合を考えてみます。幸いに私はそういう状況になったことはないので、想像でしかないのですが、ありえることですから今回考えてみたわけです。あくまで想像の世界なのでそれを踏まえて読んで欲しいと思います。

工事はストップしてしまい、次の業者を捜さなければならないのですが、その前に現在の出来高のうちどこまでが発注者の分でどこまでが建設業者の分かを分ける作業が必要となります。工事途中で放り出してあった後を引き継ぐ人を捜すのも難しいでしょうし、当然工期はかなり長く延びてしまうでしょう。

文句のはけ口のないお客さんとしては、推薦した設計事務所に当たることになるのは見えています。推薦することで設計事務所が責任を問われるのかどうかは分かりませんが・・・。

私が推薦するのは工事の技術力であって経営状態ではないし、あくまでアドバイスのつもりです。契約するのは建築主個人の責任においてであることを、ハンコを押す前に伝えるのですが、それがどこまで理解されているかは想像のしようがないわけです。

それでは発注する工事業者の経営状態が分かっていればそういう問題に出会う確率は低くなるのかも知れないと思うのですが、自分の会社はヤバイと公表するところなんてあるはずがないし・・・。新聞でK組やH建設の負債が大きくてひどい状態だと報じられているのに、官公庁は依然として公共工事を発注しているので、どこからがホントにヤバイのかは我々に知る由もありません。ま、それが原因で工事を受注できなくなったらそれこそヤバイ状態100パーセントということかも知れませんが。

責任逃れをするわけではないのですが、私のように建築の技術者に推薦する建設会社の経営状態を含めてのものを求めるのは無理ではないでしょうか ? でも、無理だと開き直ってもしょうがないので、何らかのデータでチェックくらいはしたいなと思っていました。

財団法人建設業情報管理センターというサイトがあります。恐ろしいことに ? いや、情報公開がここまで進んでいるかを知って驚きました。これまでも、まとめたモノは製本されて役所などで閲覧はできたそうですが、家で居ながらにして見ることができるのは、建て主にとってみれば便利になったけど、工事業者にとっては嫌なものかもしれません。

このサイトでは各社の経営状態が読めます。・・・といっても、私には読めませんが・・・。見ることはできます。データを分析する知識がないので見てそれを想像するくらいです。

このデータは、公共工事をしたい工事業者が出した書類から作られていますから、民間工事だけをしている工事業者は掲載されていません。データは、工事業者に対してポイントをつけてランク分けし、発注する工事金額によってランク分けされた中から指名数社を選ぶ指標として利用されています。データを見ていて思ったのですが、官公庁はそれでいいのかも知れないけど、私はこのままそのポイントを鵜呑みにするのは危険だと感じました。

技術力が評価されることはない。これは、数字に置き換えることは無理なので仕方のないことかも知れませんが・・・せいぜい技術者としての資格を持っている人の人数で想像するしかないけれど、資格を持っているからいいとは限らないので・・・。役所はそれでしか判断できないでしょうけどね。

純利益が多ければポイントが高くなるということは、あくどい商売をして儲ければポイントを稼げるということにつながる(ポイントの高い会社があくどい商売をしているという意味ではないが・・・逆の見方もありえるという意味です)お客さんのことを思ってぎりぎりのところで請負っていればポイントは高くなりえないということになります。

職人を抱えている会社より、商社的な全てを下請けに出す会社の方がポイントが高くなってしまう。引き渡し後の手直しなどを考えると職人を抱えている会社に頼みたいと私は考えます。例えば設備会社(給排水衛生や空調換気工事など)で考えると、不具合がでやすい工種であるのに、職人を抱えていない会社だと、連絡をとってから来て貰うまでに時間がどうしてもかかりそうな気がします。

また、工事だけで考えても下請け会社に全てを任せるのと自社の職人を使うのを比べると差がありそうな気がします。

このサイトのデータは一年以上前のものであること。決算後提出された書類からのデータなので当然のことですが・・・。急激に業績が悪化していたり、がんばって業績を伸ばしてもこのサイトに反映されるのはかなり時間がかかることを考慮しなくてはならない。

まぁ、いくつかの疑問点もあるデータですが、概要を知る意味での指標として冷静に見ることができれば役に立つように思えます。はて ? 設計事務所のデータもあるんでしょうか ? 有ったとしたら、うちのポイントはマイナスになるということでしょうね。


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