建築設計事務所の仕事 4 work index

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2001/03/06 階段について

先日Sさんという方からメールが来ました。『相談にのってください』という Subject で・・・

昨年建売住宅を買いました。現在の住まいです。階段が急勾配(一段のサイズが奥行20.7cm高さ20.8cmで13段)で毎日危険を感じています。以前は平屋住まいでしたので、階段の様子にピンと来なくて、購入したのですが、売り先に改修交渉ができるものでしょうか?けが人が出てからでは遅いですから。

という質問でした。
階段一段の、奥行きを『踏面』(ふみづら)と呼びます。また、高さを『蹴上』(けあげ)と呼びます。

今回は踏面が207mm。蹴上が208mmということですね。これが危険かどうかは、住む人の主観によるでしょうけど、建築基準法では(共同住宅の共用階段を除く)住宅の階段は幅 750以上。蹴上 230以下。踏面 150以上と決められています。これは角度にして 56.9゚ に相当します。

Sさんの住宅の場合は、階段角度が約 45゚ ですからまぁまぁ良心的ではないでしょうか ? 普通の住宅では(普通という定義はないけれど、ま一般的に) 45゚を超える勾配の階段がほとんどだと思います。

天板の奥行が 227mmで前に出ている板状の部分が 20mmですので、階段本体の上部奥行は 207mmです。蹴上は 208mmです。幅は770mmです。前に出ている板状の部分が 20mmありますので、たまに、ここの部分につまずいてしまいます。
私の希望
子供、年寄りがいる家庭では、安心して暮らせる、安全な家が必要です。家の中で、毎日使っているもので、危険が伴うものといえば、階段でしょう。最近は駅でもお店でも緩やかな階段ばかりで、手すりに頼ることなく、安全に昇り降りできます。私の家の階段は両手が荷物でふさがっていたら、昇り降りできません。少なくとも奥行は靴のサイズ 270mm位は欲しいです。蹴上は子供、年寄りのことを考えて、 150mm位が良いのではないかと思いますが、専門の方の意見はどうでしょうか?

この蹴込み ( けこみ ) 部分 ( Sさんのいう 20mmの部分 ) がないと住宅の階段ではなお上りにくくなります。傾斜の緩やかな緩勾配で、踏面も大きければ、蹴込みはなくても問題にはなりませんが。( 蹴込みがないと踏面が狭いために足を乗せにくい、まぁ、そのためにつまづく原因となるので、Sさんのいうように勾配が緩やかならこういうものは必要ない ) どちらにしても、踏面 270×蹴上 150というのは公共建築でもなかなかないですね。蹴上150というのは、屋外階段などで、踏面300×蹴上150で設計します。しかし、屋内で蹴上げ150という寸法は殆ど無いと思いますよ。

確かに緩やかな階段の方がいいし、それよりも全てスロープにしてしまう方が安全です。しかし・・・階高2700として現在の階段面積は、段部分だけで 12×207×770=1.913平米。それを踏面270×蹴上150にすると17×270×770=3.534平米になります。約1.85倍の面積を喰うわけです。階段の上下分の面積が床面積に影響するので、(3.534-1.913)×2=3.242 ・・・これは約一坪に相当します。建て売りでそれは多分致命的だと思います

これは、階段・廊下よりも居室の面積をとる方を好むユーザー全般に問題があると思います。設計者とすれば、階段は緩やかで広い方が気持ちもいいし、安全だし・・・いうことないのですが、まず、最初に削られるのはそこだろうと思います。これは、ユーザーがそういう部分にお金をかけてもいいという気持ちに変わらなければなしえないことでしょう。

参考までに、上の文章を図にしてみました。

実を言うと私はこれまで、設計の段階で階段の勾配について建て主と打ち合わせしたことがありませんでした。私の価値観はある程度正しいと思っていたし、そこで問題が起きるとは考えていなかったからです。今回このメールで、専門家とユーザーの意識のズレ・・・というか、僕の意識のズレに気付きました。他の設計者の方はそのへんもちゃんと打合せをしているのかも知れません。

私が当たり前だと考えていることも、もう一度考え直してみる必要があるのではないかと感じました。当たり前・・・と捉えていることに再度注意を向けて意識をを保つことは難しいことだろうと思います。でも、そのギャップは埋める必要があるんでしょうね。思ったのと違ったって階段の改修を持ち出されるなんて、考えただけで・・・ぞぞぞっ。
設計時や現場監理時に、建て主との意識の差を無くすことは最も大切だと言いながら、まだまだ、甘ちゃんだった・・・と気付いた一件でした。

ちなみに、我が家は戦前に建った古い三軒長屋のうちの一軒なのですが、踏面165×蹴上243で、勾配自体は55.8゚ ですから、なんとか基準内ということですが・・・蹴上が建築基準法をクリアしていません。設計事務所が建築基準法をクリアしていない家に住むなんて ! と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、これは『既存不適格』(きぞんふてきかく)と言って、法の施行(しこう)以前に建っていたものは、どうしようもないじゃん・・・となって、オッケーなわけです。


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