「押水の住宅」について
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家族構成 両親夫婦+夫婦+子供3人敷地面積 848.750m2 (257坪) ・建ペイ率 17.0%・容積率 25.6%
延床面積 216.962m2 ( 66坪) ・1階床面積 144.585m2・2階床面積 72.377m2
建築面積 144.585m2
都市計画区域外であり木造2階建で面積が500m2以下なので確認申請は必要なし

 
外壁について
これまで、外壁に木を張った建築をいくつか設計した。塗装せず、木が雨に打たれ、年月を経ることによって灰色に変化した様子も私は好ましく思っているが、「それではまるで納屋みたいで嫌だ」というのが大抵のクライアントの意見だった。しかし、保護材である塗装は5〜10年で塗り替えるメンテナンスを必要とする。そのためには足場を組まねばならず、その費用は馬鹿にならないのが難点だった。これは木に限らず、新建材であるサイディングも同様である。メンテナンスが少なくてすみ、汚れの付かない洗える外壁材が欲しいと常々感じていた。

街を歩いていて工事現場を眺めながら、木造に限らず構造だけの状態は美しいと思っていた。が、外壁が取り付いて「なーんだ」とがっかりすることが多かった。骨格が美しい建物は外壁でそれを隠すのは惜しいと思う。建築家がガラスを使って透明な建築を造る気持ちもわかる。でも、透明すぎてプライバシーがなく住めないのは困る。普通に住宅として機能しつつ構造が透けるものを造ってみたいと感じていた。

最近の在来木造の外壁は、外側から外壁材(サイディングや鉄板など)+通気層+透湿シート+断熱材(グラスウール)+石膏ボード+ビニルクロスという構成で造られるのが一般的である。しかし、改修工事などで内壁を剥がすと、グラスウールにカビが生えて真っ黒になっている場合が多い。壁内での結露水をグラスウールが吸ってカビが生えているわけだ。外気温と室温に差があると、どうしても結露が避けられない。もしその状態が内装で隠されることなく目に見えていたなら、クライアントからのクレームは後を絶たず、設計者としても知らないふりはできなかっただろう。実際、ほとんどの設計者は壁内の結露を知りつつ目をつぶっているわけだ。

結露を防ぐ手段として考えられたのが高気密高断熱の工法である。これは室内をポリシートで覆い、その上に石膏ボード+仕上を施している。当然、この場合は石膏ボードの裏、つまりポリシート面で結露が発生する。それを防止するために24時間フルタイムで換気扇を回す必要が生じる。シートで密閉された部屋に住むのは息苦しいので機械によって換気するわけだ。こういう建物の造り方は、機械が止まると空気が澱み木が腐っていくわけで、なにかしらムリがあると私は感じている。

結露を防ぐのが難しいならば、結露を許しそれをコントロールする選択肢もあるのではないかと考えてみた。現実にエアコンでは内部で結露を起こし、発生した水を外部に排出している。それが許されているならば、結露を起こさせる部分を建築化してみようと考えたわけである。この住宅では、外壁であるガラス面で結露を起こさせ、ガラスを伝った水はサッシュから排出される。

外壁材としてのガラスは、木の暖かみを視覚的に得ることができ、木が風雨で傷まず、汚れたら洗え、または結露をコントロールする材料として選択した。「石を投げられたらどうするん?」と10人中10人が尋ねる。確かにそれがないとは言い切れない。しかし、楽観的に考えるならば、ガラス張りのビルでそれが投石で割れた例は意外と少ないのだ。クライアントは外壁の脆さというデメリットといくつかのメリットを天秤にかけてこの提案を採用した。クライアントの決断によって、この実験的な外壁が実現した。


 
普通、木造では間柱(まばしら)や根太(ねだ)・母屋(もや)・垂木(たるき)などの下地材がある。下地材は力の伝達と壁・天井などの内装材を留めつける為に存在している。必要ではあるが、構造材ではない副部材である。構造材とは、建物を構成する骨格として風や地震などの外力や建物自身の重さや家具などの荷重を支える部材で、柱や梁を指す。この住宅では下地材を使用していない。柱・梁・床板・野地板・壁板で構成され、それらは全て構造材として機能している。

下地材を使用しないことに何の意味があるのか。それは建物を構成する部材点数が少ないということである。このことはローコスト化に向けての選択肢を広げるという意味を持つ。ローコストとは「価格が安い」という意味だが、仮に同じ金額でもその内容は違うはず。説明してみよう。

(a)仕様を落とす 
例えば、使用する木材の樹種を落とすことや等級を下げることが考えられる。国産の檜やヒバではなく、外国産の安い樹種にする。同じヒバでも青森ヒバより米ヒバが安い。無節ではなく上小(直径約10?以下程の節が1m間隔に一個ぐらいずつ点在)や1等材(下地用/多少の死節、ハチクライ、目割れ等も混入)を使用する。これらは工事費を安くあげる手段となる。 土台は檜・ヒバ系を使用しない場合、防蟻処理が必要になる。一般的に防蟻能力のない材料を使い、薬品で防蟻効果を得る方が多く採用されているということは、明らかにそちらの方が安価であるはず。しかし、薬品処理することは健康に問題がある可能性がゼロだとは言えないので、性能を落とすものだと私は考えている。デザインや見栄えの差だけなら我慢できるが、性能が落ちたり健康に害のあるやり方は、ローコストの手法として私は採用したくない。建て主がそれを納得した上でのことならばいいのだが・・・。 

(b)値引き 
大量発注や、材料メーカーと施工会社の力関係で値引きされた価格で材料を手に入れる。(a)と違って性能は落ちない。しかし、値引率が建て主に知らされることは少ない。大量発注によって浮いた分が施工者の儲けとして搾取され、現実には(a)として仕様を落として処理される場合もあるだろう。この場合は施工者にとってはローコストであるが、クライアントにとってそうでないといえる。正直に値引きされる場合もある。 

(c)手間のかからない工夫 
現代において建築する場合、材料代よりも人件費の占める割合が多いことから、できるだけ手間のかからない工法を選択することが重要である。そのためには、現在行われている一般的なやり方に新たな工夫を加えなければならない。そのためには、実験や冒険が必要となる。住宅メーカーが採用している工場生産のプレファブリケーションで、現場施工の手間を最小限に抑えるやり方もこの中に含まれる。 

(d)数量を減らす 
材料などの数量を減らす。平面計画で壁の量を減らしたり、外形をシンプルにすることも有効である。水廻りをまとめたり、材料を統一することも効果がある。吹抜を増やしたり、ちまちまと部屋を仕切らないほうがコストは落ちる。これはデザインが制限されることも予想され、建て主の理解が必要となる。 

(e)発注形態の工夫 
発注方法を変える。元請の下で各種工事の下請けが工事を行うのが一般的であるが、それぞれの職種と契約すれば元請がもっていく経費分が浮く。しかし、それぞれの職種との打合せ手間や責任区分が難しくなる。何か問題が起きたとき、一括発注だと窓口は一つでその施工者と交渉すればよいが、分離発注の場合、関係職種を呼んで誰の責任かを明確にしなければ解決しにくくなる恐れがある。 

人はローコストと何気なく言葉にするが、上に書いたように内容に差が存在することを理解しておられるか、私には疑問が残る。(a)のように仕様を落として安価に仕上がったモノは当然の結果であり、それをうたい文句にすること自体、筋が違うように思う。 

私は設計者としての努力は、(c)のやり方を工夫してみることではないかと考えている。建物を造るための部材点数を減らすことは、ローコスト化の可能性を高めるという意味を持つはずである。


 
設備・家具について
エアコンで空調はしない方針の住宅である。冬季の暖房は、一階床のコンクリートを蓄熱層とする低温床暖房である。夏期は外気負荷のクッションとなる二階の天井がないため屋根面に散水している。水の蒸発潜熱は1g当たり540calであり、一日当たり水面から蒸発する水の量は6〜8mm程度。それは1m2で一日当たり約3000kcalとなる。これは10帖用エアコンを1時間運転するのと同じ熱を奪うことに相当する。当然屋根面は断熱されているからその蒸発熱分まるごと室内空気が冷やされるわけではないが、屋根面の断熱性能が低ければ低いほどインテリアの空気に与える効果は増す。今回の場合どれだけ影響があるか、これからデータを取る予定である。

屋根面からの雨水または散水された水は、90φの竪樋を通り2m3程度の桝に貯められる。夏期はバルブ操作によって桝から延びた25φのパイプがもう一度竪樋の中を通り屋根に散水される。蒸発して足りなくなった水は井戸から補給される。(桝に貯めることで水の温度が下がっているので冬期の融雪には使用しない)

換気扇はキッチンからの排気のみである。室内空気の換気は二階天井際の外倒し窓によって行う。これは居室・トイレ・浴室も同じである。キッチンは吹抜部分に位置するので、レンジ際から吸い込み、地中を通って外気に排気される。


 
柱―米ヒバ構造用集成材・梁―アカマツ構造用集成材
一般部壁板―米松1等・浴室吹抜部分壁板―米ヒバ1等
2階床板―米ヒバ1等・屋根野地板―米松1等
居室の吹きガラス照明器具は「螢屋」と同じく、ガラス作家の瀬沼健太郎氏に製作を依頼した。
畳敷き部分のテーブルの樹種はトチのチヂミ杢
寝室のクロゼットのみ既製品を使用している
リビングのテーブルはタモ
キッチンのワークトップは厚さ3mmのステンレスヘアライン仕上げ
浴室・トイレ用庭の樹は、岡田建設工業の岡田浩之氏の自宅に植えられていたケヤキを移植

 
西側 ( 前面道路側 ) 立面図

 
設計・監理 -architect office- Strayt Sheep / 長村寛行
電気・給排水衛生設備設計 ジェーエス設備事務所
施工 岡田建設工業株式会社
   
電気設備 北陸電気工事(株)
給排水衛生 羽咋設備(株)
   
コンクリート 紺谷工務店
型枠工事 ダイニチ
鉄筋工事 (有)西沢鉄筋工業所
木工事 (株)橋本工建
金属工事 (有)八州鉄工
石工事 (株)河原市石材
屋根防水工事 北川瀝青工業(株)
シーリング工事 河原コーキング
左官工事 岡崎左官工業所
タイル工事 野崎タイル(株)
木製建具工事 (有)のざき建具・杉浦木工所
金属製建具 立山アルミニウム工業(株)
ガラス工事 (株)天田硝子店
造作家具 ウッディ・ミタニ
塗装工事 (有)木村塗装
内装工事 (株)タッセイ金沢支店
流し台 (株)マコト
電気工事 (有)押水電気工事
床暖房工事 キーサン 
井戸工事 東亜サクセン工業(株)