観た建築の感想 index

東京国立博物館  法隆寺宝物館 谷口建築設計研究所
久しぶりに素晴らしい建築に出会えることができて、盆と正月が一緒に来たくらいの嬉しさを感じることができました。

これまで、美術館を観に行くと展示室では美術品を観るくらいしかできなかったのに、宝物館では展示方法が勉強になっておいしさ二倍って感じです。

ああいう、建築を観ると元気が出るような気がします

宝物館は、ある意味『和室の床の間』的、外観を鉄骨で造り出したように感じました。また『抜ける』という感覚が建築的ハードウェアに盛り込まれて、それは、ちょっと障子を開けてその部分から向こうが見える・・・的な・・・。それが、左正面奥へ、右横へ、ちょっと奥上へと三方向(フレミングの法則の親指・中指・人差し指をたてた感じ)に立体的に抜けているという面白さを与えているようでした。見学しながら、その端正さに上品な懐石料理をいただいているような感覚を持ちました。

また、展示方法はこれまでの展示ケース(手を触れないように美術品が入っているガラスケース)のあり方と照明のあて方が素晴らしいと思いました。展示ケースの天井部分はフロストガラス(すりガラスのようなざらざらした半透明のヤツ)になっていて、天井の照明がそのガラスにだけ当てられて、そこに当たった光は柔らかく拡散してケース内の小さな30cm程度の仏像を照らし出します。台に埋め込まれた照明器具から小さな(10mm×3mm)スリットを通しても仏像を照らしています。そうすることによって、普通上からの光の当たらない下から見てもちゃんと光が当たって細部まで観察することができました。部屋の中が暗く、また鑑賞しようとするガラス面に光が当たらないためにガラスはあくまで透明さを保ち反射して見づらいということはありませんし仏像に手で触れられそうなほどガラスの存在感は消失していました。

美術品の名前は展示台の左横に貼られています。これは展示室に入ったときに林立している仏像を、それだけ見せるという意味と・・・。普通、人々は美術品の名前を見てから鑑賞するという反対の味方をします。本来なら美術品を見てインプレッションを感じることが大切でその名前や作者を見てからというのは、ある種のブランド志向でもあると思うのです。左横に名前が貼られているということは、まず美術品である仏像と対峙させる。次に、名前を見るために左に身体を移動させるわけですが、そのまま仏像の横や後ろもちゃんとごらんなさいよ・・・と無言の元に動かされているような感じです。

そういう、人々を空間内において指図なしに導くことは建築家として最高の技術ではないでしょうか ?これは、建築家だけでなく展示・照明・学芸員など最高に優秀なスタッフみなさんの努力の結果だと思います。

東洋館/谷口吉郎1968年
本館/渡辺仁1937年
表慶館/片山東熊1908年


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