観た建築の感想 index


2000/08/03追加
谷村美術館 村野・森建築事務所 新潟県糸魚川市京ヶ峰2-64-1
1983.05完成  SK1984/01/P129 
2000/07/28は長岡に行く前に糸魚川で谷村美術館を見学してきました。
同じ敷地内にある玉翠園には設計図面や模型も観ることができてラッキーでした。その上、工事写真などのアルバムも閲覧できるので、コーヒーを飲みながらじっくり図面を解読 ? してきました。
不思議なことに特記仕様書や仕上表や建具表といった大切な図面が無く(紛失したのではなくてもともとないようでした)図面は『こういうものを造りたいんだ』という概要を伝えるためのモノであり
ホントに大切な部分は口頭で伝えられたのかも知れないと感じました。モノ造りの一つのあり方でしょうか ?公共工事の設計にはマッチしにくいかも知れませんけど・・・。
この美術館は澤田政廣(さわだせいこう)という方の仏像が展示されています。展示する仏像が決まっていての建築設計ということで、展示品と展示室が溶け合っています。小さい美術館ですが、もう一度訪れたくなるような雰囲気を漂わせています。

八ヶ岳美術館の3年ほど後に完成しているわけですが、私としてはこちらの方が好きです。それはやはり展示と建築の融合という点でしょうね。村野氏最後の作品としても観る価値は高いでしょう。外壁もかなり汚れてきていますが、新建材とは違って味になっているようです。最近の建築は『こう造りたかったんだ !!!』というような執念のようなモノが感じられなくなってきています。ある意味綺麗で美しくサラッと造り上げて格好いいのですが、こういう土臭くて・・・でも、迫力があってわくわくするような建築を観ると嬉しくなってしまいます。

ここは澤田氏が『玉翠園』という日本庭園を訪れたときに、自分の美術館をここに建てたいと言い出したらしくて、その持ち主である谷村建設という会社が美術館を建てたそうです。澤田氏は自分の造った仏像を寄付して、谷村氏は美術館を建てた。設計は村野籐吾氏です。澤田氏も村野氏も93歳でもう
亡くなっていますが、村野氏最後の作品でした。

従業員100人くらいの地方の建設会社が、こういう『メセナ』的な文化活動をやっているというのは、素晴らしいことだと感じました。大企業ではバブル時にお金にあかせて文化に力を注いでいたけどバブルの終演と共に殆どの企業が手を引いてしまいました。地方で頑張っているそういう会社があることがもっと知られてもいいのにね。


2000/08/07追加
リリックホール  伊東豊雄建築設計事務所 新潟県長岡市寺島町315番地
小ホールの四角くマッシブな濃い色の塊と大ホールの楕円形の波板ガラスの半透明な塊とが対比されてそれを結ぶへらへらっとした銀色の屋根。また、グリーンのなかを縁取るかのような回廊的な歩行者用のシェルターも現代建築のありかたを十分に伝えてくれるようでした。

屋根付きの歩道橋で近代美術館とつながっているのですが、折角なのに土木コンサルの設計でしょうか ? 如何にもデザインしました・・・というのが感じられるのですが、『デザイン』の意味を取り違えているようで、観ていて疲れます。リリックホール側からその歩道橋への短い接続部分は伊東氏の設計です。それは格好いいのですが、窓がfixなので暑くて温室の中のようでした。まぁ、短いから我慢はできるんだけど。格好悪い方の歩道橋は引違い窓が付いていて、まぁまぁ許せるくらいの温度。外から見たときの格好と内部の快適さは比例しないといういいモデルのようでした。

施設は建築家が設計して素晴らしくなっても、それに接続する歩道橋がイマイチっていうのは、新潟の新潟市民芸術文化会館や幕張メッセでも感じました。土木と建築がうまく噛み合っていないのが悲しいと思います。折角だから同じ建築家に設計して貰えばもっといい雰囲気になるのにね。

網入波板ガラスはシール部分からの汚れが汚くて、折角高価な材料だろうに安っぽく見えていたのが残念でした。

ここにレストランがあれば食事でもと思ったのですが、開場しているときにビッフェがオープンするらしくて、食事する場所がなかったので、近代美術館の方へ行きました。お金がかかっている建物でしたが、それだけ ! レストランは『屋上庭園』という名前だけど殺風景な景色 ? ともいえない場所を観ながら昼食をとりました。ウェイトレスの方に『この建物は誰の設計ですか ?』と尋ねました。『ちょっと待って下さい』と、誰かに聞きに行っての答えは『黒川紀章って人らしいです』と・・・。絶対に違う !!! 聞く人を間違えました。分からないなら『わからん』と言ってくれた方がまし ! 

折角こんな文化施設が揃っているのだから、リリックホールの前の綺麗なグリーンの中にでも、気持ちいいレストランを作って貰えたらいいのにと思いました。


2000/08/10追加

潟博物館 新潟県豊栄市前新田乙493  青木淳  1999年日本建築学会賞


遊水館 新潟県豊栄市前新田乙311
2000/07/29は豊栄市(とよさか)の潟美術館と遊水館を見学。

遊水館
暑い日だけあって多くの人でにぎわっていました。屋内・屋外にプールがあります。『写真を撮ってもいいですか ?』って聞いたら『人に向けないで下さいね』って。そりゃそうだ。
両方の建築とも新鮮なディテールに出会うことができました。新建築を購読していないので、正確にはわからないんだけど、アスファルト・・・密粒ではない粗粒か、それとも透水性か・・・目の粗いやつ・・・だと思う・・・が、床材に使ってある。階段ではその小口を見せていたり。潟博物館の方では、小口をSUSで縁取りしてあったけど、どちらが進化した形なのでしょうか。特に潟博物館のように斜路の場合は、こういう素材だとシームレスに施工できるし、ノンスリップ効果も期待できそうで、いいのかもしれないと感じました。遊水館では、プールを空中で横切っているギャラリーデッキとアプローチ階段に使用してありました。ちょっと思いつかない素材で驚きましたが、目的と効果を考えるといい材料かも知れません。さすがです。
 

遊水館はどちらかというと内側に、潟博物館は外側に開く形で外観が決められています。これは用途にもあっているし、それぞれの建築から相手を観たときに対比されていて納得できる姿だと感じました。


潟博物館
両方とも館入口にある配置サインが大きなレリーフになっていて、こういうお金のかけ方は好きだなと思います。なんとなく触ってしまいたくなる質感です。材質が違っているのもまた、よし。
こちらの方がディテールは見るべきモノがありました。ま、建物の性格上でしょうけど。考えられて寸法が決まっているなと納得できるところが多くありました。

残念なことに鉄部に錆が出ていたし、デッキ部分のモザイクタイルが、浮きかなりの部分が剥がれてしまっていました。施工が雑なのか、それとも監理が悪いのかは判断しにくい状態でしたが、竣工後間もないことを考えるとこの後の維持管理費にかなりのお金をつぎ込まなくてはならないようでした。

かつての建築家達の作品は径年変化と共に味が出ていたように思えます。『造りたかったんだ〜っ!!!』という執念のようなモノが、最近の建築からは感じることができず、さらっとした格好良さが時代を象徴しているようでもあるのですが、でもそれがワクワク感とも違って(流行の)半透明な皮膜のようにもどかしいような印象でした。村野氏の谷村美術館はダイレクトに伝わってくる分私にはわくわくするし楽しかったのが、その他の建築への不満のようで悲しく思えました。


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